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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第307話
寝覚の床の主
長野県の民話 → 長野県情報
むかしむかし、木曽川(きそがわ)のほとりの寝覚(ねざめ)の里には、年に一度、若い娘のいる家に白羽の矢が飛んできて、それがささった家の娘を淵(ふち)に住む主への生け贄に捧げなければならなかったのです。
そうしないと悪い病が流行ったり、大切なそばの実が一粒も実らなかったりするのです。
ある年の事、今年も一軒の家の屋根に白羽の矢がささりました。
その家にはおじいさんとおばあさん、そして一人の若い娘がいたのです。
三人とも矢が立った事を知ると、とても悲しみました。
ちょうどその頃、小川(おがわ)の里に、一人の行者(ぎょうじゃ→修行僧)が住んでいました。
何でも全国をめぐって修行をつんだらしく、その念力は大変なものだったそうです。
おじいさんとおばあさんは、さっそくこの行者を訪ねて、
「どうか娘を、お助け下され」
と、懸命に頼みました。
すると行者は、しばらく祭壇(さいだん)に向かってお祈りしたところ、こんなお告げを言いました。
「七日の間に、イノシシを一頭捕ってくるのじゃ。そうすれば、主を倒せるかもしれぬ」
おじいさんとおばあさんは急いで家にもどり、身仕度をととのえると山へと向かいました。
そうして山のあちこちを探し回ったあげく、とうとう七日目の昼に一頭のイノシシを捕まえたのです。
おじいさんとおばあさんはさっそく行者のところへイノシシを持っていくと、行者は太く長い藤づるの綱と、太く大きな釣り針を用意して、これにイノシシを結びつけて寝覚の里へと出かけて行きました。
さて、淵には主退治の噂を聞きつけた村人たちが、次々と集まって来ました。
行者は頃合いを見て、藤つるに結んだイノシシを淵へと投げこみました。
すると少したって淵の水が激しく渦巻くと、急に綱がものすごい勢いでどんどん淵の中へ引き込まれたのです。
「それ、かかったぞ! 綱を引け!」
行者の声に、村人たちは夢中で綱を引っぱりました。
淵の底からは、何者かがすごい力で綱を引っぱります。
そのうち風も出てきて、淵のまわりは嵐のように荒れ狂いました。
村人たちは恐ろしくなりましたが、それでも今までのうらみとばかりに、必死になって綱を引っぱりました。
さて、それからどのくらいたったのか、淵の綱を引き込む力が弱まったかと思うと、嵐もだんだんおさまってきました。
「それ今じゃ、引き上げい!」
行者の合図で村人たちはかけ声もろとも、一気に引き上げました。
こうしてやっと引き上げた物は、牛よりも大きな大山椒魚(おおさんしょううお)だったのです。
「こいつが、淵の主だったのか」
それからは白羽の矢が立つこともなくなって、村人たちは平和に暮らしたのです。
おしまい
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