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百物語 第314話

タヌキ屋敷

タヌキ屋敷
兵庫県の民話兵庫県情報

 むかしむかし、播磨の国(はりまのくに→兵庫県)の逢坂山(おうさかやま)に、『タヌキ屋敷』と呼ばれる古い屋敷がありました。
 ある日、一人の侍が逢坂山にさしかかったとき、日が暮れてしまいました。
「夏とはいえ、知らない夜の山道を歩くのは危険だ。どこかに泊まるところはないものか」
 あたりを探していると、山の登り口に一軒の屋敷がありました。
「おおっ、これは助かった。ずいぶんと古いが、なかなかの屋敷ではないか」
 侍が近づいてみると、屋敷の奥の方に明かりが付いています。
 侍は屋敷の中へ入ると、大きな声で言いました。
「たのもう! わしは旅の者だが、日が暮れて困っておる。どうか今夜一晩、泊めてもらえぬか」
 すると奥から、老婆がよろよろしながら出てきました。
「まあまあ、それはお困りでしょう。こんなところでよかったら、どうぞ、泊まっていきなされ。わたしは突然の腹痛で、さっきから休んでいたところ。一人暮らしゆえ、何のおかまいも出来ませんが。・・・あいたた」
 そう言うと、老婆は腹を押さえてしゃがみこみました。
 侍は、あわてて老婆を抱き起こすと、
「さあ、これを。秘伝の薬です」
と、印籠(いんろう→薬入れ)から薬を取り出して、老婆に飲ませました。
 すると薬が効いてきたのか、しばらくして老婆は、ゆっくりと立ちあがりました。
「おかげさまで、痛みはなくなったようです。助かりました。さあ、こちらへ」
 老婆は侍を案内して、座敷につれて行きました。
「また、腹が痛くなっては申しわけないから、薬の効いている間に休ませてもらいます。どうぞ、ごゆっくり。・・・・ああ、ふとんは、そこの押し入れにありますから」
 老婆は、さっさと自分の部屋へ帰って行きました。
 侍は一人になると、ふとんをひっぱり出して横になりましたが、眠ろうとはしませんでした。
 それというのも、さっき老婆を抱えたとき、老婆の体からけもののにおいがしたからです。
(念のために、刀を抱いておこう)
 刀を抱いた侍が、布団の中で寝たふりをしていると、真夜中に、ふすまがすーっと開いて、だれか入って来たではありませんか。
 侍がそっと目を開けてみると、まくらもとにさっきの老婆が立っていて、みるみるうちにけものの姿に変わっていきます。
(やはり、化物であったか)
 侍はふとんの中で刀をにぎりなおすと、飛びかかってきた相手を切り倒しました。
「ウギャャャーーー!」
 老婆はおそろしい悲鳴を上げると、その場に倒れて死んでしまいました。
 見てみると、そこに倒れていたのは老婆ではなく、一匹の古ダヌキだったのです。
 こんな事があってから、人々はこの屋敷のことを『タヌキ屋敷』と呼ぶようになったそうです。

おしまい

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