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百物語 第320話

ひょうたんの大入道

ひょうたんの大入道
鳥取県の民話 → 鳥取県の情報

 むかしむかし、ある浜辺に、一人の漁師が住んでいました。
 いつものように浜辺に出て魚を釣っていましたが、どうしたわけか、今日は一匹も釣れません。
「仕方ない、今日はあきらめて帰るか」
 漁師がさおを引き上げようとした、その時、
 ぐぐっ!
と、さおに確かな手応えがありました。
「よしよし、何かが釣れたぞ」
 漁師が喜んで引き上げると、それは魚ではなく、ひょうたんの入れ物でした。
「なんだ、ひょうたんか。しかし、水に浮くはずのひょうたんが、なぜ水に沈んでいたんだ? ・・・中に、何か入っているのか?」
 そう言って、ひょうたんのせんを取ったとたん、もくもくもくと、中からけむりのようなものが立ち登りました。
 そのけむりのようなものはみるみる大きくなり、やがて大入道の姿になったのです。
「でっ、でたー!」
  漁師がびっくりしていると、大入道が言いました。
「わあはははは、よくぞひょうたんを釣りあげてくれたな。わしは何百年もこの海の中にいて、死ぬほどたいくつしておった。まずは釣り上げてくれた礼に、お前を一口で食べてやろう」
 大口を開けた大入道が、漁師をつまみあげようとすると、
「ま、待ってくれ!」
と、漁師が大入道に叫びました。
「なんじゃ? 今さら逃げようたって、そうはいかんぞ」
「いや、逃げたりはせん。わしも男じゃ。いさぎよくお前に食われてやろう。だが、食われる前に一つだけ頼みがある」
「うん? なんじゃ、言うてみろ」
 そこで漁師は、いかにも不思議そうに言いました。
「それは、お前みたいにでっかいのが、どうやってこんな小さなひょうたんに入っておったんじゃ? 悪いが、もう一度見せてくれ」
「なんだ、そんなことか。よし、今、見せてやるぞ」
 言ったかと思うと、大入道はみるみる小さくなって、ひょうたんの中へ入ってしまいました。
(よし、今だ!)
 漁師は素早くひょうたんの口にせんをして、力いっぱい海の中へ投げ込みました。
「だっ、だましたな〜!」
 ひょうたんに閉じ込められた大入道は、また、海の底へと沈んでしまいました。
「やれ、やれ、助かった」
 漁師はほっとして、家に帰っていきました。
 それからその漁師は、この浜では二度と魚釣りをしなくなったそうです。

おしまい

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