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百物語 第321話
弥三郎(やさぶろう)ばばあ
新潟県の民話 → 新潟県情報
むかしむかし、新潟のある山のふもとの村に、弥三郎ばばあと呼ばれるおばあさんがいました。
弥三郎ばばあは村の嫌われ者で、つきあう者はだれもいませんでした。
その事を恨んでか、弥三郎ばばあは大変な事をしたのです。
それは山犬やオオカミを手なずけて山の峠道で人を襲い、手下のけだものたちと一緒に人間の肉を食べたのです。
ある日の事、弥三郎ばばあの息子の弥三郎が、町へ用事に行った帰り、日が暮れかかる峠道にさしかかりました。
すると白髪をふりみだした鬼のような恐ろしい老婆が、とつぜん山犬やオオカミを引き連れて襲いかかってきたのです。
びっくりした弥三郎は、あわてて近くの大きな木によじのぼりました。
老婆は弥三郎がのぼっている大木の根元までくると、弥三郎が逃げ出さないように手下のけだものたちを木の周りに並べて、自ら木をよじ登りはじめました。
弥三郎は、その老婆が自分の母親だとは思いもしません。
また弥三郎ばばあの方も、木の上にいるのが自分の息子だとも知りません。
弥三郎は老婆に気付かれないように、腰にさしていた鎌を手に持ちました。
そして老婆が近づいて弥三郎の足をつかもうとしたその時、弥三郎は手の鎌を力いっぱい老婆の頭をうちつけました。
「ギャー!」
老婆はものすごい悲鳴をあげて木からずり落ちると、手下のけだものたちとやぶの中へ姿を消していきました。
しばらく様子をうかがっていた弥三郎は、木からおりると脇目もふらずに家まで逃げ帰っていきました。
家に帰ると、町へ出かけるときは元気だった母親が、頭に手ぬぐいを巻いて寝ていました。
弥三郎がたずねると、母親は、
「何でもないよ。ぼんやりして柱に頭をぶつけただけだ」
と、いうのです。
しかし手ぬぐいににじんでいる血を見ると、傷はかなりひどいようです。
弥三郎が心配してさらにたずねると、母親はいきなりふとんをはね飛ばして起きあがり、
「わしの頭を割ったのは、お前じゃ! この親不孝者め!」
と、わめきながら、家の外へ飛び出していきました。
弥三郎があとを追って外へ出ると、母親は山の方へ走っていき、そのあとを手下の山犬やオオカミたちがついていきました。
その後、弥三郎ばばあは、弥彦山(やひこざん)の深い森の中の岩穴に住み着き、山犬やオオカミたちと弥彦山のふもとの村で村人を襲ったり、墓場から死体を持ち出したりして、なんと二百年も生き続けたという事です。
おしまい
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