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百物語 第325話

夜の葬式の化け物

夜の葬式の化け物
新潟県の民話 → 新潟県の情報

 むかしむかし、お父さんとお母さんと子どもの三人家族がいました。
 お母さんのお腹の中には赤ちゃんがいるので、もうすぐ四人家族になるところです。
 ある日の事、お腹の大きくなったお母さんは、急にナシが食べたくなって、山へと出かけました。
 そして袋いっぱいにナシを取ったお母さんが、ふと気がつくと、もう夕方になっていたのです。
「あら、もうこんな時間。今から帰っても夜になってしまうから、ここで朝まで待つことにしましょう」
 お母さんはナシの入った袋を木に縛ると、朝が来るのを待つことにしました。
 さて、しばらくすると、遠くから葬式の行列が姿を現したのです。
 それを見たお母さんは、びっくりしました。
 この地方では、夜に葬式を出すのは化け物と決まっていたからです。
「大変、化け物の葬式だわ。見つかるとどんな目にあわされるかわからないから、木の上に隠れていましょう」
 お母さんはあわてて、木の上に登りました。
 やがて葬式の行列は、お母さんが登っている木の下に来ると、手に持ったクワで地面を掘り起こし、死体を埋める穴を掘っていきました。
 それを見たお母さんは、怖さでぶるぶると震えながら、思わず、
「おっかない」
と、言ってしまったのです。
 するとその声が聞こえたのか、穴を掘っていた化け物たちは一斉に木の上を見上げました。
「いま、人間の声が聞こえたぞ。この上にいるのか?」
「人間なら、取って食ってしまえ」
「そうだ、そうだ。食ってしまえ」
 化け物たちはそう言うと、次から次へと長い手を木の上に伸ばしてきました。
 お母さんは必死になって、木の上に登っていきましたが、やがてこれ以上登れないところまで登ったときに、長く伸びた化け物の腕に足を捕まれてしまいました。
 その手は、とてもヌルヌルとした、とても冷たい手です。
「きゃー! 助けてー!」
 お母さんは悲鳴を上げて逃げようとしましたが、そのままその化け物の手に引きずり下ろされて、お母さんは化け物たちに食べられてしまったのです。
 さて、お母さんの帰りを待つ家では、いつまでたってもお母さんが帰ってこないので、お母さんを捜しに山へ行きました。
 そこで家の人たちは、食い残されたお母さんの着物をナシの木の下で見つけたのです。

 それから何年かして、すっかり青年となった子どもは、鉄砲を持ってお父さんに言いました。
「お父さん。今からわたしは、お母さんの仇討ちに行きます。必ず化け物を退治してきますから、待っていてください」
 そして子どもは、お母さんの着物が落ちていた、あのナシの木へとやってきました。
「ここがお母さんの死んだところか。よし、夜まで待ってみるか」
 子どもが夜まで待っていると、どこからか、あのときの葬式行列がやってきたのです。
「お母さんの仇だ!」
 子どもは鉄砲を構えると、葬式行列の先頭にいる青白い光を放つ提灯を持った男に向けて、鉄砲を放ちました。
 バーン!
 鉄砲の玉は見事に男の心臓へ命中したのですが、鉄砲を撃たれた男は平気な顔でケラケラと笑うと、そのまま子どもに近づいてきました。
 子どもは続けて、二度三度と鉄砲の玉を打ち込みましたが、男は平気な様子です。
「ケッケッケッ。そんな物が通用するか。何者かは知らんが、人間は食べてやるぞ」
 男は気味悪く笑うと、青白い光の提灯を持ったまま、子どもに襲いかかってきました。
 子どもはそれからも、次々と鉄砲の玉を打ち込みますが、男は平気です。
 その時ふと、子どもは小さい頃にお母さんから聞いた言葉を思い出しました。
「死なない化け物がいるそうだが、その化け物の命は別の所にあるんだよ」
(そうか、あの化け物の命は、他の所にあるんだ!)
 子どもは、今度は男が持っている青白い光の提灯めがけて鉄砲の玉を打ち込みました。
 すると男は、
「ウギャーー!」
と、悲鳴を上げて、その場に倒れたのです。
 ふと気がつくと、葬式行列は煙のように消えてなくなり、青白い光の提灯を持った男の倒れた場所には、大きな大きな古狸が死んでいたという事です。

おしまい

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