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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第326話
うらみの青い人魂
静岡県の民話 → 静岡県情報
むかしむかし、遠江の国(とおつとうみ→静岡県)の横須賀(よこすか)というところに、大鐘(おおがね)と呼ばれる大変なお金持ちがいました。
田畑をたくさん持っていて、ご殿のような屋敷に住んでいます。
ところがどうした事か、この家の主人がなくなったあと、家族が次々と病気でなくなり、とうとう主人の母親であるおばあさん一人だけになってしまったのです。
「あの家には、何か、たたりがあるにちがいない」
「まあ、あれだけの金持ちだかなら、うらみの一つや二つあるだろう」
「うっかりしていると、わしらも死ぬかもしれないぞ。もう、あそこの屋敷で働くのはごめんだ」
と、使用人たちが、みんな屋敷を出てしまったので、おばあさんのめんどうを見る人がいなくなってしまいました。
仕方なく、おばあさんは一人でくらしていたのですが、そのうちおばあさんも病気になって、なくなったのです。
すると、どこからか親戚の人たちが駆けつけてきて、葬式もすまないうちに、
「あの畑は、おれがもらう」
「この家の倉は、わたしのものよ」
「ならおれは、家畜小屋の家畜を全部もらおう」
と、
この家の土地や財産を全部わけてしまったのです。
屋敷も人手にわたり、だれ一人として、おばあさんの墓参りをする者はいません。
さて、おばあさんがなくなって、一月ほどすぎたある晩の事。
その日は夏だというのに、梅雨みたいな雨が、しょぼしょぼと降り続いていました。
「なんだか、いやな夜だな」
親戚の人が財産として手に入れた田んぼの前を通りかかると、青白い火の玉がふわりふわり飛んできました。
そして、どこからともなく、おばあさんの声が聞こえてきたのです。
「これは、わしの家の田んぼだ。あれも、わしの家の畑だ」
「うひゃー!」
親戚の人はびっくりして、雨の中を転がるように家へ逃げかえりました。
「あれはきっと、おばあさんの人魂(ひとだま)にちがいない。わしらが田んぼを取ったのを、恨んでいるのだ」
その時から、雨の降る晩や月のない晩になると、きまってこの人魂が飛んできて、おばあさんの声が聞こえるのです。
「これは、わしの家の田んぼだ。あれも、わしの家の畑だ」
財産を横取りした親戚たちは、気が気でありません。
そのうちに青白い人魂は、村人たちの前にも現れるようになりました。
「これも、わしの家の田んぼだ。あれも、わしの家の畑だ」
と、言う声とともに、田んぼや畑の上を、青白い人魂がふわりふわりと飛び回ります。
ところでこの人魂は、決して人に危害を加えないのです。
ただしばらく飛び回って、墓の方に消えていくだけです。
ある日、村人たちはおもしろい事を発見しました。
人魂が飛ぶのを見たとき、
「大鐘ばあさん、遠い、遠い」
と、言ったら、人魂はすーっと近くへ飛んできて、反対に、
「大鐘ばあさん、近い、近い」
と、言ったら、遠くへ離れていくのです。
だから村の子どもたちは、ホタル狩りに行っても人魂が来ないように、
♪ほうほう、ほうたるこい
と、歌いながら、ときどき、
♪大鐘ばあさん、近い、近い
と、言うそうです。
おしまい
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