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福娘童話集 > 日本のこわい話(百物語)
百物語 第331話
大野の化け物屋敷
石川県の民話 → 石川県情報
むかしむかし、能登の国(のとのくに→石川県)に、大野長久(おおのながひさ)という俳人(はいじん→俳句を作る人)がいました。
代々大きな屋敷に住んでいましたが、
「なんでも、自然のままがいい」
と、言って屋敷の手入れもせず、荒れるにまかせていました。
おかげで壁は薄汚れ、最近では雨漏りもあります。
そんな、ある年の秋、この屋敷に化け物が現れるといううわさが広まりました。
夜中に明かりを持った黒いかげが、屋敷の庭を歩きまわっているというのです。
それでも長久は、
「馬鹿馬鹿しい、何かの見間違えたのだろう。もし、たとえ本当の化け物であったのなら、それもまた風流でよいではないか」
と、気にしませんでした。
さて、ある晩の事、となり町でかさをつくっている男が、注文のかさを届けにこの屋敷へやってきました。
屋敷の門をくぐって、ふと顔をあげてみると、庭のほうでちらちらと明かりがゆれています。
「何をしているのだろう?」
見ていると、黒い人かげが手にあんどんを持って、庭の中をあっちへ行ったり、こっちへ行ったりしているのです。
(へーっ、さすがは風流の人。こんな夜の庭を歩きまわるとは)
かさ屋が感心していたら、明かりが庭のすみで、ふっと消えました。
(まっ、まさかこれは、うわさのあやしいものでは・・・)
怖くなったかさ屋は、急いで屋敷の中へ飛び込みました。
「ごっ、ごめんください。注文のかさを届けに来ました!」
すると、長久が出てきたのでたずねました。
「あの、もしや、いま庭を歩いておられたのでは?」
「いいや、さっきから部屋にこもっていたが」
「それじゃ、だれか庭を歩いていましたか?」
「この屋敷に住むのは、わしと手伝いのじいさんとばあさんだけだ。二人とも自分の部屋にいると思うが。それが何か?」
かさ屋は真っ青な顔で、いま見たことをくわしく話しました。
しかし長久は、顔色一つ変えません。
「なるほど、うわさはやはり本当であったか。しかし、別に悪さをするわけではなし、騒ぐほどのことでもあるまい」
それでもかさ屋は、
「今は何もなくとも、そのうちに恐ろしい事がおこるかもしれません。ここは祈祷師(きとうし)に頼んでお経をあげてもらってはいかがですか?」
と、言いました。
「うむ、まあ、そのうちに考えておこう」
長久はかさを受けとると、さっさと奥へ引き下がりました。
かさ屋は外に出て、もう一度庭をながめてみましたが、あんどんを持った人かげはありません。
さて、それから三、四日すぎた夕暮れ。
客が来るというので、古い道具を出しに裏庭の蔵へ行ったおばあさんが、
「うへぇーー!」
と、大きな悲鳴をあげました。
(何事だ!)
長久とおじいさんがかけつけると、なんとおばあさんが、気を失って倒れているではありませんか。
「どうしたのだ!?」
おばあさんを必死で介抱すると、気がついたおばあさんは、よほど怖い物を見たらしく、ブルブルと震えながら蔵の前につんであるまきを指さして、
「あっ、あそこ、あそこ」
と、言うのです。
二人はまきの前にかけつけましたが、特に変わった様子はありません。
そこで、もう一度おばあさんに確かめると、
「土の上、一尺(いっしゃく→三十センチ)ばかりのところを四角いちょうちんみたいな明かりが、ふらふらと進んでいくので、びっくりして足を止めたら、明かりの中から人のかげが現れて、こっちを向いたのです。その顔は気味悪いほどに青くて、しかもあんどんのように四角でした」
と、いうのです。
そこで長久は人を呼んで、屋敷の中をすみずみまで調べてみましたが、あやしいものは何一つ出てきませんでした。
でもそんなことがあってから、人々はこの屋敷を『大野の化け物屋敷』と呼んで、だれ一人近づこうとはしませんでした。
そしてしばらくすると、主人の長久や、手伝いのおじいさんとおばあさんは、どこかへ姿を消してしまったそうです。
おしまい
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