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第 76話
日田(ひた)どん
大分県の民話 → 大分県情報
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むかし、日田(ひた)の町に犬蔵永季(おおくらながとし)いう、すもうの強い大男がいました。
背たけは六尺六寸(→約二メートル)をこえ、畳一枚もある大石を折りたたむほどの怪力だったそうです。
みんなからは、『日田どん』と呼ばれていました。
その頃、京の都では日本一の力持ちを決める、御前ずもうが行われていました。
もちろん日田どんも選ばれて、御前ずもうに出ることになったのです。
日田どんは大原八幡宮(おおはらはちまんぐう)にお参りをして優勝を祈願(きがん)すると、京都へ向かいました。
ところが日田どんが筑前の国(ちくぜんのくに→福岡県)にさしかかったころ、どこからか美しい娘が現れてこう言いました。
「そなたの相手は、出雲の国(いずものくに→島根県)の小冠者(こかじゃ)という者なるぞ。小冠者は赤銅の体に、鉄の頭を持っておる。残念だが、とても勝ち目はない」
日田どんも、小冠者のうわさは聞いていました。
何でも小冠者の母親は強い子を産もうとして毎日砂鉄ばかりを食べていたので、全身が鉄の肌をした小冠者が生まれたというのです。
「相手はあの、小冠者か」
日田どんが顔色を変えていると、娘はさらにこう言いました。
「ですが、恐れることはありません。小冠者の母はあるとき、うっかりウリを食べたことがあるため、小冠者の額には親指の先ほどのやわらかいところがあるのです。そこを狙えば、そなたは勝てるでしょう」
娘はそれだけ言うと、かき消すようにいなくなってしまいました。
「あの娘は、何者じゃろう? さては、大原八幡のお告げか? とにかく、勝ち目はあるのだ」
日田どんは自信を持って、京都へ足を進めました。
さていよいよ、日本一が決まるその日、娘の言った通り最後まで勝ち残ったのは日田どんと小冠者でした。
開始の太鼓が鳴り響くと、小冠者はすごい勢いで突進してきました。
日田どんも負けじと押し返しますが、うわさ通り小冠者の体は鉄のように固く、力も牛のように強いのです。
「なにくそー!」
日田どんはこんしんの力を込めますが、いくら押しても小冠者はびくともしません。
さすがの日田どんも、危なくなってきました。
そのとき、どこからか白鳥が舞いおりると、日田どんの頭の上をぐるぐるとまい始めたではありませんか。
(美しい鳥じゃ。まるであの娘のような、・・・そうじゃ!)
日田どんは、あの娘の言葉を思い出すと最後の力をふりしぼり、ここぞとばかりに小冠者の額めがけて右手を突き出しました。
「ウギャーーー!」
これには小冠者も悲鳴を上げて、よろよろとよろけるとその場に倒れてしまったのです。
「勝った! 勝ったぞー! 日本一だ!」
こうして日田どんはめでたく日本一となり、その後も四十九歳で死ぬまで一度もすもうで負けたことがなかったそうです。
今でも日田神社では、日田どんが『力士道の神』としてたたえられているそうです。
おしまい
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