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第 89話
シラミの質入れ
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むかしむかし、米沢(よねざわ→山形県南部の市)の近くの村に佐兵(さへい)と言う、とんちの上手な男がいました。
貧乏な佐兵の着ている着物はボロボロで、その着物には、いつもシラミがたかっています。
ある日、お金が必要になった佐兵は、家の中で一番上等な着物を質屋(しちや)へ持って行きました。
すると、質屋の番頭(ばんとう)が、
「おい、佐兵よ。お前の着物には、シラミがいっぱいたかっているぞ」
「うん。確かにたかっているな。だが、お前さんの店では、《何でもお受けします》と書いてあるぞ」
「まあ、それはそうだが」
「そうだろう。それじゃあ着物と一緒にシラミも預かったと、ちゃんと質札(しちふだ→預かった事を示す紙)に書いてくれよ」
「シラミをか? まあいいが、それでシラミの数は?」
「そうだな。五升(→約9リットル)のシラミを預かったと書いてくれ」
「へいへい」
番頭がその通りに書いて渡すと、佐兵はニヤリと笑って帰りました。
そして数日後、佐兵はお金を持って着物を引き取りに来ました。
着物を受け取った佐兵は、質札を取り出すと番頭に言いました。
「確かに着物は受け取ったが、でも、返してもらう物がまだ足りないぞ」
「足りないって、何が足りない?」
「五升のシラミだ。質札にちゃんと書いてあるものだろう。だからシラミも返してもらわねえとな」
「へっ?」
シラミの事など冗談だと思っていたのですが、確かに質札に書いて渡したので、客から返せと言われれば返さなくてはなりません。
でもシラミを五升なんて、どこを探してもありません。
番頭は、頭をかきながら、
「まったく、佐兵にはかなわんな」
と、シラミの代わりに酒代を渡して許してもらったそうです。
おしまい
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