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第 107話
おじいさんとカニ
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むかしむかし、ある村に、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある日のこと、おじいさんが川で一匹のカニをつかまえて来ました。
おじいさんはカニ太郎と名付けると、えんの下で飼ってとても可愛がりました。
おじいさんはおいしい物があると、まっ先にカニに分けてやりました。
町へ行ったときは、いつもカニの大好きな焼きイモを買って来て食べさせるのです。
それでカニは、すっかりおじいさんになつきました。
おじいさんが、えんの下をのぞいて、
「ほら、じじ来たぞい。カニ太郎、出ろやい」
と、呼ぶと、カニははい出して来てごちそうをもらい、喜んで食べるのです。
ところがおじいさんがあまりカニを可愛がるものだから、おばあさんはだんだんカニをにくらしく思うようになりました。
(カニのやつが来てから、おじいさんはあたしよりもカニを大事にしておる。本当ににくたらしいカニだ。おじいさんのいない時に、うんといじめてやろう)
そんなある日、おじいさんは町へ行って帰りが遅くなりました。
(よし、今日こそ、カニのやつをぶってやろう)
おばあさんはまきを隠し持ってカニのいるえんの下をのぞき、おじいさんの口まねをして、
「ほら、じじ来たぞい。カニ太郎、出ろやい」
と、呼びました。
カニはおじいさんが帰って来たと思って、喜んでえんの下から出て来ました。
ところがそこにいたのは大好きなおじいさんではなく、こわい顔をしたおばあさんだったのです。
カニはあわてて逃げようとしましたが、間に合いませんでした。
おばあさんが隠し持っていたまきで、ガツンとカニを叩いたのです。
おばあさんは殺すつもりではなかったのですが、カニはもがき苦しんで死んでしまいました。
「これは大変な事をしてしまった!」
おばあさんはオロオロしましたが、
(まあ、死んでしまったものは、どうにもならん)
と、なんとカニを煮て、食べてしまったのです。
そしてカニのからを裏の竹やぶにうめて、おじいさんが町から帰って来ても知らん顔をしていました。
おじいさんはいつものように、カニの好きな焼きイモを持ってえんの下をのぞき、
「ほら、じじ来たぞい。カニ太郎、出ろやい」
と、カニを呼びました。
けれどもカニは、いくら呼んでも出て来ません。
(おかしいな、どうしたんだろう? 裏の畑にでも遊びに行ったのかな?)
おじいさんはそう思って家の裏へ探しに行き、あちこち歩き回って何度も呼んでみましたがカニは出て来ません。
(カニ太郎は、どこへ行ってしまったんだ?)
おじいさんは悲しくなって、ボンヤリと立っていました。
すると竹やぶの方からきれいな小鳥が一羽飛んで来て、おじいさんが立っているすぐそばの木の枝にとまって、
「ピイヨ、ピイヨ」
と、悲しそうに鳴きました。
そしてしばらくしてから、また竹やぶの方へ飛んで行きました。
(めずらしい小鳥じゃ。こんなきれいな小鳥は、初めて見た)
おじいさんが見とれていると、その小鳥は何度も竹やぶの方から戻って来ては、おじいさんに呼びかけるように鳴くので、
(これはきっと、おらに何か知らせたがっているんだな)
と、思って、小鳥の飛んで行く方へついて行きました。
竹やぶの中には誰がほったのか、土をほり返した跡がありました。
小鳥はそこを、足でしきりにかいていました。
おじいさんがそばに行って見てみると、なんとカニのこうらやちぎれた足が土の中から出ているではありませんか。
「だ、だれが、こんなひどいことを! ・・・ひょっとしたら、おらのばあさまでは?」
おじいさんは怒って家に戻ると、おばあさんに言いました。
「ばあさま! よくもあんな可哀想な事を・・・!」
おじいさんはそう言うと、あまりの悲しみにそのまま倒れてしまいました。
おばあさんはおじいさんをかいほうすると、泣きながら謝りました。
「おじいさん、おじいさん、おらが悪かった。
どうか、かんべんしてください。
おどかすつもりで叩いたら、死んでしまったんじゃ。
初めから殺すつもりでは、決してなかった。
悪かった、かんべんしてください」
おじいさんはおばあさんが心から謝っているとわかると、そろそろと起きあがって、
「いいよ、いいよ」
と、おばあさんを許してやりました。
そして二人で竹やぶの中に、カニのお墓を建ててやりました。
それからというもの、あのきれいな小鳥が飛んで来ては、竹やぶの中で美しい声で鳴いたそうです。
おしまい
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