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第 152話
元の平六
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むかしむかし、ある町に、平六という貧しい男が住んでいました。
その平六は、とても不精者で、洗濯が面倒だと、同じふんどしを二年もしめていました。
だから初めは真っ白だったふんどしも、今では汚れて焦げ茶色をしています。
そしてそのふんどしは、雨が降りそうになると湿気で白いカビが生えて白っぽくなり、天気になって乾燥してくると、カビが消えて元の焦げ茶色になるのです。
ですから、その事に気づいた平六が、
「明日は晴れだ」
と、言うと、必ず晴れますし、
「もうじき雨が降る」
と、言うと、必ず雨が降って来ます。
この兵六の天気占いがあんまりよく当たるので、町の人たちはいつも平六のところへ明日の天気を聞きに来るのでした。
そしてこのうわさは、お城のお殿さまの耳にまで届いたのです。
「平六とやらの天気占いは、そんなによく当たるのか。面白い、わしの家来にとりたてよう」
こうして平六は、お殿さまの家来になったのです。
家来になった平六は、お殿さまのお天気相談役に取り立てられ、お殿さまが大好きな狩りに行く日の天気を占うようになりました。
狩りに行く日の天気が前日に分かるため、お殿さまは大喜びです。
これにより平六は、立派な服を着て家を建て替えるほどに出世したのです。
(おれも偉くなったのだから、いつまでも古いふんどしをしめているわけにもいかんな)
そう考えた平六は、古い汚れたふんどしをたんすにしまい込んで、新しいふんどしに取り替えました。
さて、夏のある日の事、お殿さまが隣の国のお殿さまと一緒に狩りに行くと言うので、平六は明日の天気を占う事になりました。
「では、明日の天気を占いますので、しばしお待ち下さい」
そこで平六は家に飛んで帰ると、たんすの奥から古いふんどしを引っ張り出しました。
するとふんどしには、白いふわふわのカビが一面に生えていて、まるで雪をかぶったかのように真っ白です。
「はて、これは何だろう? ・・・おお、そうか!」
しばらく考えていた兵六は、急いでお城へ戻るとお殿さまにこう言いました。
「お殿さま、明日は雪でございますので、狩はおやめになった方がよろしいでしょう」
すると、それを聞いたお殿さまは、
「この馬鹿者。夏だというのに、どうして雪が降るのだ! もし雪が降らなかったら、お前は、お役御免だ!」
と、カンカンに怒りました。
次の日、雨は降りましたが、やっぱり雪は降りませんでした。
そこで家来をクビになった平六は、また元の貧乏に戻ってしまったのです。
この事から、一度良くなった事が、また元に戻る事を、『元の木阿弥(もくあみ)』の真似をして、この地方では『元の平六』と呼ぶようになったそうです。
おしまい
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