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第 180話
天狗がつくった山と池
鹿児島県 北薩地方の民話 → 鹿児島県の情報
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むかしむかし、入来(いりき)の東の愛宕(あたご)の山には、とても乱暴な天狗(てんぐ)が住んでいました。
毎晩、山を相手に乱暴な事ばかりしているので、山のてっぺんはくだけた岩が散らばっています。
また、入来の南の八重(えや)の山にも、天狗が住んでいました。
こちらの天狗は、とてもやさしい天狗で、毎晩山をなでては、山をきれいな形にしていたのです。
当然の事ながら、この二人の天狗は、あまり仲良しではありません。
さて、ある晩の事、愛宕の山の天狗が、八重の山の天狗に言いました。
「おーい、八重の山の天狗よ。どうだ、ひとつ力比べでもせんか」
すると、八重の天狗も答えて、
「わかった。だが、どうするのだ?」
「そっちの八重の山は、のっぺりした山ばかりでどうにもならん。こっちの愛宕の山で勝負じゃ。ごつごつしていて、力比べにはもってこいじゃ」
そこで八重の山の天狗は、愛宕の山へやって来ました。
八重の山の天狗は、愛宕の山を見てびっくりです。
「なんともひどい。これじゃあ、山がかわいそうじゃ」
八重の山の天狗は、愛宕の山の隣の藺牟田(いむた)の山のてっぺんをけずって、そばに小山を作りました。
ご飯をおわんに盛ったような、とても形の良い山だったので、あとになって飯盛山(いいもりやま)と名づけられました。
そして藺牟田の山もきれいにけずりとられたので、形のきれいな山になりました。
「どうだ。きれいな山は、気持ちいいだろう。それに、おれの力は大した物だろう」
先を越された愛宕の山の天狗は、ムッとなって、
「なんのそれくらいの事」
と、言うが早いか、藺牟田の山を、
「えいっ!」
と、持ち上げると、そのままどんどん歩き出して、入来(いりき)を抜けて樋脇(ひわき)の弁天原(べんてんはら)まで行ったのです。
ちょうど、夜が明けかかったので、
「ここらでいいか。どっこいしょ!」
と、そこに山をおろしました。
これが、今の丸山弁天(まるやまべんてん)なのです。
そして藺牟田の山のあった場所は、大きな穴になったので、やがてそこに水がたまって池になりました。
これが、今の藺牟田の池です。
ほかにも丸山弁天のすぐそばに小さな丘がありますが、あれは天狗が山をおろした時に、手についたドロを落として出来たもので、『天狗のもっこ丘』と、呼ばれています。
さらに弁天原のあちこちには、へっこんだ所がありますが、それは天狗の足跡だと言われています。
おしまい
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