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第 183話
すずきとさざえ
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むかしむかし、南の海に一匹のすずきと、一個のさざえが住んでいました。
すずきは泳ぐのがとても早くて、めったな事では漁師のアミにかかりません。
それでも、いつアミが襲ってくるかと、毎日ビクビクしていました。
ある日の事、すずきが他の魚たちと一緒に泳いでいると、ふいにアミが投げ込まれました。
「危ない! 逃げろ!」
すずきが叫びましたが、ほとんどの魚がアミに捕まり、上へと引っぱられていきました。
すずきも、もう少しで捕まるところでしたが、何とかアミを逃れる事が出来ました。
さて、岩にくっついているさざえが、さっきからこの様子を見ていました。
そしてさざえが、すずきに言いました。
「やあ、魚と言うのはなさけないものだね。いつも漁師のアミにビクビクしながら暮らさないといけないからね。同じ海の生き物でも、おいらたちさざえとは、えらい違いだ」
「それじゃ、きみたちは漁師に捕まる事がないのかい?」
「当たり前だよ。アミにかかるさざえなんて、一つもいないよ。ぼくたちさざえは、毎日のんびりと過ごしているのさ」
それを聞いて、すずきはさざえがうらやましくなりました。
するとさざえは、ますますいばって言いました。
「それにおいらには固いからがあるし、しかもからにはたくさんの角を持っているから、怖い物無しだよ。おまけに入り口には戸があるから、いざと言う時には、戸を閉じてしまえば大丈夫さ」
「・・・・・・」
すずきは何も言い返す事が出来ずに、黙り込んでしまいました。
「まあ、これからもしっかりと、逃げ回る事だね」
馬鹿にされたすずきは、とてもくやしがりました。
さて次の日の事、さざえが岩にくっついたまま、良い気持ちでいねむりをしていると、上の方で、
ドボン!
と、何かが飛び込む音がしました。
ふと顔をあげると、白い服を着た人間が近づいてきます。
(なに、驚く事はないさ)
さざえは、しっかりと戸を閉めると、そのままぐっすりと眠り込んでしまいました。
すると、夢の中にさっきのすずきが現れて、
「助けてくれーー!」
と、言うのです。
何と海の中に潜ってきた人間に、捕まってしまったのです。
いくら素早く泳ぐ事が出来ても、こうなればお終いです。
「まあ、運命と思ってあきらめる事だな」
さざえの言葉に、すずきが言い返しました。
「人事だと思って! お前だって、いつかこんな目にあうからな」
「ふん、おあいにくさま。おいらには、固いからと戸があるから大丈夫さ」
そう言ったとたん、さざえは目が覚めました。
「さて、海草でも食べるか」
さざえは、ゆっくりと戸を開けました。
そして、外の様子を見てびっくりです。
何とさざえはほかの魚と一緒に魚屋の店先にいて、からの前には値段を書いた札まで置いてあるのです。
白い服を着た人間は、さざえを取る海女さんだったのです。
おしまい
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