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第 207話

三味線の木

三味線の木
秋田県の民話秋田県情報

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 むかしむかし、あるところに、とても上手な三味線ひきのおじいさんがいました。
♪テンテンテン
♪テコテコ、シャンシャン
と、ひきながらあっちの村、こっちの村へとまわり、みんなからお金をもらって暮らしていました。
 ある冬の事、いつものように三味線をひきながら村はずれの道までくると、雪が降ってきました。
(ああ、これは大変だ)
 雪はだんだん激しくなって、ひどいふぶきになりました。
(どこかに、家でも)
 まわり見てみましたが、どこにも家がありません。
 おじいさんが三味線をかかえながらとぼとぼ歩いていると、目の前に大きな木が立っていました。
 ふと見ると、みきのところに人が入れるぐらいの穴が開いています。
(こいつは、ありがたい)
 おじいさんは、さっそくその穴の中へ入りました。
 穴の中は思ったよりあたたかくて、いい気持ちです。
 おじいさんはくたびれていたので、だんだんねむくなってきました。
(いかんいかん! こんなところでねむったら、死んでしまうぞ)
 おじいさんは三味線をかかえると、眠気覚ましにひきはじめました。
♪テンテンテン
♪テコテコ、シャンシャン
 ところが雪は三味線の音に合わせるように、ますます激しく降ってきます。
 おじいさんは三味線をひくのをやめて、雪が降るのをぼんやりとながめていました。
 もう、ねむくてねむくてたまりません。
 それでもしばらく目を開けていましたが、そのうちにぐっすりとねむりこんでしまいました。
 何日も何日もねむり続けているうちに、木はどんどん大きくなって、おじいさんを中に入れたまま、穴をふさいでしまったのです。
 おじいさんはそれっきり、もう二度と目を覚ますことはありませんでした。
 さて、やがて冬が終わり、春がやってきました。
「三味線ひきのおじいさんは、どうしたのかな?」
「そういえば、近頃はさっぱり姿を見せなくなったな」
 どの村でも、おじいさんのうわさをしていましたが、そのおじいさんがどこからきて、どこへ帰っていくのか、だれも知らなかったのです。
 ある日の事、近くの村人がこの木の下を通りかかりました。
 すると、あたたかい春の風がふいてきて、木の葉っぱがさわさわとゆれました。
 その時です。
♪テンテンテン
♪テコテコ、シャンシャン
 どこからともなく、三味線の音が聞こえてきました。
(あっ、三味線ひきのおじいさんがきたぞ)
 村の人は振り返りましたが、だれもいません。
(おかしいな?)
 するとまた風がふいてきて、木の葉っぱがさわさわとゆれ、木の中から
♪テンテンテン
♪テコテコ、シャンシャン
と、いう三味線の音が聞こえました。
(木だ。この木から聞こえるぞ)
 そんな事があってから、村人たちはこの木を『三味線の木』と呼ぶようになりました。
 この不思議な木は、風で木の葉っぱがさわさわとゆれるたびに、
♪テンテンテン
♪テコテコ、シャンシャン
と、なりつづけましたが、やがて秋になり、木の葉っぱが全て散り終わると、それからはならなくなったと言う事です。

おしまい

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