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第 216話
天より高い桜の花も
京都府の民話 → 京都府情報
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制作: フリーアナウンサーまい【元TBS番組キャスター】
むかしむかし、丹波(たんば→京都府)の山奥に、一人の長者がいました。
ある日の事、長者の家で働く、初吉、忠助、末蔵という三人の下男が、田のあぜに腰をおろしてこんな話をしました。
「どうだね、ひとつ自分たちが世の中で一番欲しいと思う物を言いあってみようじゃないか」
それはおもしろいと、一番年上の初吉から言いました。
「わしはな、家の旦那の様な暮しを、三日でもいいからしてみたいわい」
次の忠助は、
「わしは、白銀をかごに三杯持ってれば、他に望みはないよ」
と、言いました。
最後に末蔵は、
「わしは、旦那の娘の桜花さんと結婚できたら、他に望みはないよ」
と、いいます。
さて、この話をちょうど散歩にやって来た長者が、こっそりと聞いていました。
長者は家に帰って夕食の後、にこにこしながら、初吉を呼びました。
「初吉や。お前たちが今日の昼、田のあぜで何を話していたか、わしに聞かせてくれないか」
すると初吉は、びっくりして、
「旦那さま、あれは、じょ、冗談です」
と、言いました。
すると長者は、
「冗談でもいい。言ってみなさい」
と、言うので、初吉は正直に答えました。
「へい。わしは三日でいいから、旦那さまの様な暮しがしてみたいと言ったんで」
すると長者は、初吉の願いを叶えてやることにしました。
次に忠助を呼ぶと同じ事を聞き、忠助の願いである、かご三杯ほどの白銀を与えてやることにしました。
さて、最後に末蔵の番になりました。
末蔵は顔をまっ赤にして、長者の前でうつむいていました。
「末蔵、そうビクビクせず、言っていたことを話すがええ」
そこで末蔵は、思い切って、
「はい、旦那さま。どうか、ごかんべんを。わしは、お嬢さまの桜花さまの婿になれたら、他に望みはないと申したんで」
と、言いました。
すると長者は、しばらく考えていましたが、
「うむ。これは、むずかしいな。娘の気持ちもあるので、わしには決められん」
「へえ、そりゃ、もう、ごもっともで」
少しは期待していた末蔵は、がっかりしながら引き下がりました。
さて、長者はすぐに娘の桜花を呼び出して、末蔵の望みの事を話しました。
すると桜花は、顔をまっ赤にしながら、
♪天より高い、桜の花を
♪心かけなよ、こら末蔵
と、歌いました。
長者はそれを聞くと、また末蔵を呼んで、その歌を聞かせて、
「末蔵や。もしお前がこれより立派な歌をよんだら、娘に話してお前の嫁にやってもええぞ」
「ほっ、本当ですか!」
末蔵はこれを聞いて、天にも昇る気持ちです。
「ああ、いい歌さえ出来たら、おれは日本一の幸福者になれるんや」
末蔵は一生懸命に考えて、こんな歌を紙に書いて長者のところに持って行きました。
♪天より高い、桜の花も
♪散れば末蔵の、手におちる
「なるほど。これは見事だ」
長者はとても感心して、約束通り末蔵を桜花の婿にしてやったのです。
おしまい
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