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第 281話
シイの実で鬼を追い出したおじいさん
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むかしむかし、おじいさんが山でしばかりをしていると、辺りがだんだんと暗くなってきました。
「しまった。早く帰らなくては、日が暮れてしまう」
おじいさんがあわてて帰ろうとすると、道の真ん中にシイの実が三つ転がっていました。
「ほう、きれいなシイの実じゃ」
そのシイの実がとても可愛かったので、おじいさんはシイの実をふところに入れると急いで山を下って行きましたが、残念な事に途中で日が暮れてしまいました。
「仕方がない。今夜はここで泊まるとしよう」
さいわい近くに古いお堂があったので、おじいさんはそこへ泊まる事にしました。
ドンドンドン!
おじいさんがお堂のすみっこで寝ていると突然すごい音がしたので、おじいさんはあわてて飛び起きて音のする方を見ました。
すると驚いた事に、お堂の真ん中に大勢の鬼たちが集まって、金棒でお堂の床をドンドン叩いているのです。
鬼たちは床を叩きながら、こう歌いました。
♪お金出ろ! お金出ろ!
♪たんと出ろ!
♪酒出ろ! 酒出ろ!
♪たんと出ろ!
すると不思議な事に、金棒を叩いた床から小判やお酒がどんどん出てきたのです。
鬼たちは出てきたお酒で、宴会を始めました。
(今のうちに逃げないと)
おじいさんはお堂から逃げ出そうとしますが、怖さに足が震えて逃げる事が出来ません。
やがておじいさんの震える音に気づいた一匹の鬼が、ふと、おじいさんのいる方へ目を向けたのです。
「おや? すみの方に、何かいるのか?」
鬼が立ち上がって近づいてきたので、おじいさんはふところにあったシイの実を口に入れてかみ砕きました。
『カチッ!』
シイの実がかみ砕かれた音にびっくりした鬼たちが、お互いに顔を見合わせました。
「何だ? 今の音は?」
「嫌な音だったが」
おじいさんは残り二つのシイの実を口に入れると、『カチッ! カチッ!』とかみ砕きました。
「やや! これは、お堂が壊れる音に違いない。早く逃げろ!」
鬼たちは大あわてでお堂を飛び出すと、どこかへ逃げてしまいました。
次の朝、おじいさんは鬼が残していった小判をかき集めると、家に持って帰ってお金持ちになりました。
さて、この話を聞いた隣の欲張りじいさんが、さっそくシイの実をふところに入れて鬼が現れるお堂の中に隠れました。
夜中になって鬼たちがお堂に集まってくると、前と同じ様にお堂の床を金棒でドンドンと叩き始めました。
♪お金出ろ! お金出ろ!
♪たんと出ろ!
♪酒出ろ! 酒出ろ!
♪たんと出ろ!
(おおっ、酒や小判が山の様に出てきたぞ。
よし、ここでシイの実をかみ砕いて鬼を追い払えば、わしは隣のじいさんよりも大金持ちになれるぞ)
欲張りじいさんはシイの実を口一杯にほおばると、思いっ切りかみ砕きました。
『カチッ! カチッ! カチッ! カチッ! カチッ! カチッ!』
すると鬼たちは逃げるどころか、怖い顔で欲張りじいさんの方を向いて言いました。
「ばかめ! わしら鬼が、二度もそんな手に引っかかるものか! この前の分も含めて、たっぷりとお仕置きをしてやる!」
こうして鬼たちに見つかった欲張りじいさんは鬼たちにメチャクチャに殴られて、泣きながら家に帰ったという事です。
おしまい
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