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第 291話

緋鯉の恩返し

緋鯉の恩返し
青森県の民話青森県の情報

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 むかしむかし、川のそばに小さな田んぼを作って暮らしている貧乏な若者がいました。

 ある大雨の翌日、自分の田んぼが心配になった若者が田んぼの様子を見に行くと、川から飛び込んできたのか一匹のきれいな緋鯉(ひごい)が田んぼの中でパチャパチャと暴れていたのです。
 若者は緋鯉を助けてやると、川へ逃がしてやりました。
「気をつけて家に帰りな」

 それから何日か過ぎた大雨の夜、若者の家の戸を叩く者がありました。
 若者が戸を開けて見ると、外にはきれいな着物を着た美しい娘がずぶ濡れで立っていました。
 娘の着物は、緋鯉の様な模様でした。
「急な雨で難儀しております。どうか、雨宿りをさせて下さい」
「ああ、もちろんだ。風邪をひく前に、早く中に入れ」
 若者は娘を家の中に入れてやると、濡れた着物を拭いてやりました。

 次の日、娘は朝から家の掃除をしたり、ご飯の用意をしたりと、それはよく働きました。
 そしてその日の夕方、若者が娘にそろそろ帰ってもらおうと思っていると、娘は若者に手をついてお願いをしました。
「どうか、わたしをあなたさまの嫁にして下さい」
 突然の事で若者はびっくりしましたが、実は若者も働き者の娘を好きになっていたのです。
「おれは貧乏なんで嫁をもらうなんてあきらめていたが、お前さえよければ」
 こうして二人は、夫婦になりました。

 嫁はとても料理が上手で、中でも汁物の味は絶品でした。
 でも嫁は、若者に汁物を作る所を決して見せようとはしないのです。
「なぜ、汁物を作る所を見せてくれないのだろう?」

 不思議に思った若者は、ある日、早めに仕事から帰って来ると物陰に隠れて嫁が汁物を作る所をのぞき見しました。
 すると嫁は水を張った鍋の前で着物を脱ぎだし、裸になると鍋の中に飛び込んだのです。
(なんじゃ? 嫁は何をしているのだ?)
 若者が鍋の中をのぞき込むと、何と鍋の中には一匹の緋鯉がいて、気持ちよさそうに泳いでいるではありませんか。
 そして泳ぎ終わった緋鯉は人間の姿になって脱いだ着物を着ると、さっき泳いだ鍋で汁物を作り始めたのです。
(なんと、おれの嫁は緋鯉だったのか)
 若者はびっくりしましたが、でもこの事を嫁に言うと嫁がどこかへ行ってしまう様な気がしたので、若者は家に帰っても今日見た事はだまっていました。

 その日の夜、夕ご飯を食べた若者に、嫁は両手をついて言いました。
「今まで、とてもお世話になりました。
 わたしは、あなたさまに助けられた緋鯉です。
 このままあなたさまとずっと暮らしたいと思いましたが、今日、あなたさまにお汁を作る所を見られてしまい、それも出来なくなりました」
「おっ、おい、おれが悪かった。謝るから、どこにも行かないでくれ!」
 若者は嫁を必死で引きとめましたが、嫁は若者を振り払って川に飛び込むと、たちまち緋鯉の姿になってどこかへと行ってしまったのです。

おしまい

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