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2月9日の世界の昔話

バナナの皮

バナナの皮
アメリカの昔話 → アメリカの国情報

 むかしむかし、ハワイのカラパナに、カフナという、とてもえらい魔法使いがいました。
 カフナは島じゅうで一番かしこくて、一番年をとっていました。
 ある日カフナはバナナの木のしげみの中で、小さな赤ん坊を見つけました。
 カフナはその赤ん坊を家へつれて帰って、自分の息子にしました。
 赤ん坊はクカリという名をつけられて、スクスクとそだちました。
 クカリが大きくなると、カフナは自分の知っている魔法を、一つのこらず教えました。
 やがてクカリは、背が高くて美しい若者になりました。
 どんな若者も、クカリのように遠くまでヤリを投げることはできませんし、クカリのように遠くまで波乗りのできるものもいません。
 カフナはクカリを、たいそうじまんにしていました。
 ある日のこと、クカリは海岸の砂浜で波の音を聞いていました。
 波は、クカリがまだ見たことのない遠い島じまのことを、いつもはなしてくれるのでした。
「クカリ、いってごらん。ふしぎな島ヘいってごらん」
 波はさかんに、クカリさそいました。
 波の音を聞いていると、クカリは遠い国ヘいきたくてたまりません。
 そこでクカリは、カフナにいいました。
「お父さん。波がはなしてくれたんだ、遠くの島ヘいかせてください!」
「うむ。よろしい。いっておいで」
 カフナはそういうと、クカリを見つけたバナナの木からバナナを一本もぎとりました。
「息子や。このバナナをだいじに持っていきなさい。ただし、けっして皮をすてたり、手からはなしたりしてはいけないよ。このバナナはいくらたべてもなくならない、魔法のバナナなんだ」
 クカリは、お父さんからもらったバナナを腰おびにしっかりはさんで森へいきました。
 そこで大きな大きな木を切りたおして、すばらしいカヌーをつくりました。
 クカリは魔法をつかって、カヌーを鳥の羽のようにかるくしてから、海岸にはこびました。
 そしていよいよ、クカリは日の出のほうにむかって船をこぎだしました。
 クカリは夜となく昼となくこぎつづけ、やがて、とある島にたどりつきました。
 まっ白な砂浜がかがやいている、とても美しい島です。
 クカリは浜にあがると、まず、お父さんからもらった魔法のバナナをたべました。
 カフナがいったとおり、クカリがおなかいっぱいたべても、バナナはすこしもへりません。
 クカリはバナナを腰おびにはさむと、砂浜にねころびました。
 いく日もカヌーをこぎつづけたので、つかれきっていたのです。
 クカリはすずしい風にさそわれて、いつのまにかぐっすりとねむってしまいました。
 ところが、この島というのはハルルという、おそろしい鳥がいるのです。
 ハルルは、たえず島を見はっていて、人間を見つけると大きなつばさをあらしのようにはばたいてまいおり、するどいつめで人間をつかんで谷間の深いほら穴にさらっていくのでした。
 そんなことは知らずに、クカリはグーグーとねむっていました。
 そしてとつぜん、あらしのように、はげしい風がおこると、ハルルがグングンまいおりてきて、クカリを鉄のようなつめでつかまえたのです。
 クカリがふと目を覚ますと、なんと空をとんでいます。
「あれ? ここはどこ? いったいどうなっているの?」
 なにがなんだか、さっぱりわからないうちに、クカリはほら穴につれてこられました。
 ハルルはクカリをらんぼうにおしこめると、大きな岩でふたをしてしまいました。
 クカリは、まっくらやみの中にのこされました。
 そのとき、耳のそばでか細い声がしたのです。
「きみは、だれだい?」
「ぼくはクカリ。魔法使いカフナの息子だ。きみはだれだい? どうして、そんなに元気がないんだ?」
「ぼくは、ケアハウポだ。これでも前は、つよい勇士(ゆうし)だったが、いまは死ぬのをジッとまっているんだ。ここには、一しずくの水もないし、一口のたベものもないんだから。ハルルというやつはおそろしい鳥で、人間をさらってきては、ほら穴にとじこめて、うえ死にさせるんだ。いまだって、ぼくのほかに十三人も、ここにいれられているんだ。みんな、もう口もきけないほど、からだがよわっているんだ」
と、とぎれとぎれに、はなして聞かせました。
「そうか。でも、食べ物ならだいじょうぶだ。ここにバナナがある」
と、クカリがバナナを見せました。
「ばかな。ここには、十四人もいるんだぞ。一本のバナナじゃ、どうにもならない」
と、ケアハウポは、悲しそうに首をふりました。
「大丈夫。これは魔法のバナナだ。さあ、好きなだけたべたまえ。・・・ほら」
 ケアハウポは差しだされたバナナを、ガツガツとたベました。
 けれども、バナナはすこしもへりません。
 それからクカリは、十三人の男たちにも、つぎつぎとバナナをたべさせました。
 みんなは魔法のバナナにおどろいて、手に持ちたがりましたが、クカリはカフナのいいつけどおり、バナナをはなしませんでした。
 毎日バナナをたべたおかげで、みんなは、すっかり元気になりました。
 ある日、クカリはいいました。
「なんとかして、ここからにげだそうじゃないか!」
「そうだとも!」
と、ケアハウポが、まっ先にさんせいしました。
 けれど、いくらみんなが元気になったといっても、ほら穴をふさいでいる岩を動かすことは、とうていできそうもありません。
「てんじょうをしらべたらどうだろう? ひょっとすると、てんじょうは、やわらかい土になっているかもしれない」
と、クカリはいいました。
 しかし、ほら穴のてんじょうは、世界一の高とび選手がジャンプしても、とどきそうもないほど高いところにありました。
 それでもクカリは、
「十五人が力をあわせれば、かならずとどくよ!」
と、みんなをはげましました。
 まずは、十五人の中で力のある五人が、腕をくんで輪(わ)をつくりました。
 その肩の上に、四人がのぼりました。
 またその肩の上に三人がのぼり、またその肩の上に二人がのぼりました。
 そして最後に、クカリがその上を、スルスルとのぼっていきました。
 するとクカリの手は、てんじょうに、とどくことができたのです。
「よし。思ったとおり土だ。ここをほれば、ここからでられるぞ」
 それから十五人は、くる日もくる日も肩をくんで、てんじょうをほっていきました。
 土は思ったよりもかたくて、しごとはなかなかすすみませんでしたが、みんないっしょうけんめい力をあわせて働きました。
 そしてとうとう、太陽の光が、ほら穴の中にさしこんできたのです。
「やったー! ついに穴が開いたぞ!」
 みんなは、おどりあがって喜びました。
 クカリは穴からからだをのりだして、まずは、ケアハウポをひっぱりあげました。
「さあ、人間のはしごをつくって、みんなのぼってくるんだ」
 クカリの言葉にしたがって、あとの十三人も、つぎつぎと外ヘはいだすことができました。
 さて、みんなをここにとじ込めたハルルは、人間たちの声が聞こえなくなったのをふしぎに思いました。
(ひょっとして、もう、みんな死んでしまったのかな?)
 こう思って、ハルルはほら穴のようすをのぞきにきました。
 すると、ほら穴のやねに、大きな穴があいているではありませんか。
 ふと前を見ると、みんなが森の中へ逃げ込むのが見えました。
 ハルルはおこってあばれましたが、けれども、ふかい森の中ににげこまれてしまっては、どうすることもできません。
 ほら穴からにげだしたクカリたちは、森の中で休みました。
 そのとき、クカリがいいました。
「ゆっくり休んだら、ハルルたいじをしようじゃないか。さもないと、あいつはまた人間をさらうだろう」
「そのとおりだ」
と、すぐにケアハウポがこたえました。
 そしてみんなは、さっそくしごとにとりかかりました。
 まずは、大きな大きなアミをつくりました。
 いままでだれも見たこともないほどの、大きなアミです。
 アミができあがると、みんなはヤリをつくりはじめました。
 そのときクカリは、大きな木の人形を作っていました。
 それは、クカリにそっくりの人形です。
 人形ができあがると、クカリはみんなにいいました。
「この人形を、ハルルがすぐ見つけるように、砂浜へおいておこう。そして人形の上にアミをはろう。そのアミには、ぼくが魔法をかけておくから、ハルルはアミに気がつかないだろう。ハルルが人形をぼくだと思ってまいおりてきてアミにひっかかったら、きみたちが作ったヤリを役にたてるんだよ」
 こうしてみんなは、砂浜に人形をねかせて、その上にアミをはりました。
 ハルルはすぐに、人形を見つけました。
 けれどもアミには、クカリが魔法をかけていたので気がつきません。
 ハルルは、ものすごいいきおいでまいおりてきて、人形におそいかかろうとしました。
 そのとき、アミがハルルのあしにからまりました。
 木のかげからようすをうかがっていたクカリたちは、ヤリをふりかざして、いっせいにハルルにつきかかりました。
 ハルルはくちばしとツメで反撃してきましたが、ながい戦いの末、とうとうハルルを倒したのです。
 クカリは、みんなをよんでいいました。
「もう、ハルルはほろびた。これでこの島の心配はなくなった。この島は、きっとすばらしい島になるだろう。ぼくはこれから、お父さんのところへ帰ろうと思う。みんないつまでも、元気でくらしたまえ。じゃ、さようなら」
 そしてクカリは、飛ぶようなはやさで、かけていきました。
 みんながあとを追って海岸にかけおりたときには、もうクカリのカヌーは、日のしずむほうにむかって走っていました。
「これからは、この島を魔法のバナナ島とよぶことにしよう」
 海のむこうへ小さくなってゆくクカリのカヌーを見送りながら、ケアハウポはそういいました。

おしまい

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