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5年生の日本昔話
ステレンキョウ
むかしむかし、お奉行所(ぶぎょうしょ)の前に、高札(こうさつ)がたって、おおぜいの人が集まっていました。
漁師(りょうし)の浜介(はますけ)がとおりかかって、
(いったい、何ごとだ?)
と、そばヘよってみましたが、字がよめないので、近くの人にきいてみますと、けさがた浜(はま)で、きみょうな魚が取れたとのことです。
そしてその魚の名前がわからないので、いいあてた者には、金子百両(→七百万円)をあたえる。
と、書いてあるということです。
(魚のことなら、まかせておけ)
と、浜介(はますけ)はさっそく、お奉行(ぶぎょう)さまの前に出て、その魚を見せてもらいました。
(なるほど、これは見たこともねえ魚だ)
きみょうなさかなに、ビックリしていると、お奉行(ぶぎょう)さまが、
「これ、浜介(はますけ)とやら、それなる魚の名は、なんともうす?」
とつぜんきかれて、浜介(はますけ)は、
「ヘえ、テレスコと、もうしやす」
と、うっかりいってしまいました。
「テレスコともうすか。テレスコ。なるほど。よう知らせてくれた。ほうびを取らすぞ」
と、いうわけで、浜介(はますけ)は百両という大金をもらって、とぶように女房(にょうぼう)のところヘ帰りました。
さて、それからひと月ほどたった、ある日のこと。
また、お奉行所(ぶぎょうしょ)の前に高札がたっていて、おおぜいの人が集まっています。
高札には、
《ふしぎな魚がおるが、名前がわからぬ。名前をいいあてた者には、ほうびとして金子百両をあたえる》
と、前とおなじようなことが、書いてありました。
浜介(はますけ)は、またお奉行(ぶぎょう)さまの前に出て、魚を見せてもらいます。
「浜介(はますけ)、そこなる魚の名は」
「ヘえ。これは、ステレンキョウともうしやす」
浜介(はますけ)がいうと同時に、お奉行(ぶぎょう)さまは、きつい声で、
「ここな、ふらち者めがっ! これなる魚は、前の魚を干(ほ)したものじゃ。浜介(はますけ)、そのほう、前にはその魚をテレスコともうし、今日はステレンキョウともうしたな。お上をあざむき、またも金子をねらうとは、かさねがさねのふとどき者。打ち首の刑(けい)をもうしつけるぞ!」
と、いうわけで、浜介(はますけ)は牢屋(ろうや)に入れられました。
さて、今日はいよいよ、打ち首になるという日です。
お白洲(おしらす→罪人(ざいにん)を取り調べる場所)にひきだされた浜介(はますけ)は、これが最後の別れというので、女房(にょうぼう)や子どもに、ひと目あうことをゆるされました。
「これ浜介(はますけ)。あとにのこる妻(つま)や子に、何かいいのこすことはないか?」
「はい、お奉行(ぶぎょう)さま」
浜介(はますけ)はうしろ手にしばられたまま、女房(にょうぼう)子どものほうをむくと、しみじみといいました。
「いいか、おまえたち。これから先、たとえどんなことがあろうと、けっしてけっして、イカを干(ほ)したのを、スルメというでないぞ」
いいおわると、浜介(はますけ)の日やけしたほほに、涙(なみだ)が流れました。
そのとき、お奉行(ぶぎょう)さまは、ポンとひざをたたいて、
「それっ。いそいでなわをとけ!」
と、家来にいいつけてなわをとかせると、今度は自分が涙(なみだ)を流して、
「これ浜介(はますけ)。わしが悪かった。イカを干(ほ)せばスルメ。テレスコを干(ほ)せばステレンキョウになるのか。なるほど、なるほど」
と、いうわけで、浜介(はますけ)はまたほうびの百両をもらって、女房(にょうぼう)子どもとつれだって、仲よく家ヘ帰りました。
おしまい
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