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3年生の日本昔話(にほんむかしばなし)

一人になった鬼の親分

一人になった鬼(おに)の親分

 むかしむかし、鬼神山(おにがみやま)という山に、二匹(2ひき)(おに)の親分が住(す)んでいて、それぞれに大勢(おおぜい)の子分(こぶん)をひきつれていました。
 親分どうしの仲(なか)がよく、これまでけんかをしたことがありません。
 ところがある日のこと、二匹(2ひき)の親分が、いっしょに酒(さけ)を飲(の)んでいるとき、かたほうの親分が、
「おまえの子分たちより、わしの子分のほうがずっと元気がええ」
と、いいました。
「なにをいうか。そりゃこっちのいうことじゃ。わしんとこの子分たちのほうが、ずっと元気がええわ」
 もう一人の鬼(おに)の親分が、いい返(かえ)しました。
「なんだと!」
「なんだとは、なんだ!」
 酒(さけ)のいきおいも手伝(てつだ)って、二匹(2ひき)の鬼(おに)の親分が、同時に立ちあがりました。
 でも、よく考えてみたら、鬼(おに)どうしがけんかをしても、よろこぶのは人間だけです。
 おたがいに仲(なか)よくしてきたからこそ、この山に人間を近づけることがなかったのです。
 そこで、かたほうの鬼(おに)の親分がいいました。
「けんかをすれば、どっちかが負(ま)けて殺(ころ)されることになる。そんなことをするのはそんじゃ。けんかでなくて、なんぞ、力くらべをするものはないかの」
「なるほど、おまえさんのいうとおりかもしれん。そんなら、あのけわしい谷の上に、石の橋(はし)をかけるというのはどうじゃ」
「それはおもしろい。よし、日がくれたら仕事(しごと)を始(はじ)め、朝になるまでの間に石の橋(はし)をかけ、どっちの橋(はし)がよくできているか、わしとおまえで見てまわろう」
「わかった。もし、わしのほうが負(ま)けたら、おまえの弟分(おとうとぶん)になるとしよう。その反対(はんたい)に、わしのほうが勝(か)ったら、おまえが弟分になる」
 二匹(2ひき)の鬼(おに)の親分は、さっそく子分たちのところへ行って、このことを話しました。
 さて、日がくれると同時に、どっちの鬼(おに)どもも、岩をけずったり、かついだりして、石の橋(はし)をつくりはじめました。
「しっかりとがんばれ。さもないとおまえたちは、あっちの親分の家来にされてしまうぞ」
 二匹(2ひき)の鬼(おに)の親分は、必死(ひっし)で子分たちを追(お)いたてます。
 静(しず)かだった鬼神山(おにがみやま)は、まるで戦(いくさ)のような大さわぎです。
 ところが、かたほうの橋(はし)はどんどんできあがっていくのに、もういっぽうは、なかなか仕事(しごと)がはかどりません。
 やがて、東の空が白くなるころ、谷の上にひとつのみごとな橋(はし)ができあがりました。
 あとひとつの橋(はし)は、まだ半分というところです。
 橋(はし)を完成(かんせい)できなかったほうの、鬼(おに)の親分がいいました。
「どうやら、わしらの負(ま)けのようだ。しかたがない。今日からおまえが親分で、わしはおまえの弟分になろう」
 それからというもの、鬼神山(おにがみやま)の鬼(おに)の親分は一人になり、その下に大勢(おおぜい)の子分をしたがえるようになったのです。

おしまい

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