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1ねんせいのにほんむかしばなし
じゅうばこおばけ
むかしむかし、 あるまちの はずれに、 ほっけざか という、 かなり きゅうな さかが ありました。
ふだんは ひとどおりのない、 ひどくさびしい ところで、 たまに たびのものが とおるくらいの ものでした。
さて、 このさかのうえに ちゃみせが いちけん あり、 さかのしたにも ちゃみせが いちけん、 ちょうど、 おなじように たっていました。
この ほっけざかには、 ちかごろ、 ばけものが でるという うわさです。
なんでも そのばけものは、 じゅうばこ(→うえのイラストの たべものを いれる はこ) みたいなかおを していて、 しゃべるときは、 パカパカと ふたが あくと いいます。
それで、 まちの ひとたちは、
「じゅうばこおばけ」
と、 いって、 こわがっていたのです。
このはなしを きいた、 ひとりの さむらいが、
「まことに、 けしからん ばけものじゃ。 せっしゃが たいじして くれよう」
と、こしの かたなを しっかりおさえ、 ほっけさかを のぼっていきました。
いまでるか、 いまでるかと、 ようじんしながら のぼっていきましたが、 なにもでません。
ついに さかを のぼりきって しまいましたが、 ばけものは あらわれませんでした。
「ふん、 せっしゃが こわくて、 でてこれんのじゃろう。 やい、 ばけものめ。 でるのか? でんのか?」
あちらこちらを みまわし、 どなって みましたが、 いっこうに へんじがありません。
さむらいは、 うえの ちゃみせの こしかけに こしを おろして、 わらじの ひもを しめなおしながら、
「おい、 おかみさん。 おかみさん」
と、 よびました。
「はい」
「なにか、 あったかいものを ひとつ、 たべさせてくれんか」
「はい」
ちゃみせの おかみさんは、 むこうを むいたまま へんじを しました。
さむらいは まえにあった ちゃわんに、 かってに ゆを いれてのみながら たずねました。
「おかみさん。 ここらに、 じゅうばこおばけが でるという、 うわさを きいたが、 いまでも でるかな」
「はい。 ときどき」
「ほう、 でるかね。 そいつは いったい どんなやつか、 みてみたいんだ」
すると、 うしろむきの おんなは、
「いいですよ。 じゅうばこおばけと いうのは」
と、 いきなり クルリと、 さむらいのほうを むきました。
そのかおは、 おおきな じゅうばこの ように、 まっしかくで、 めも はなも くちも ありません。
そして ふたが パカッと ひらいて、
「こんな もんです。 ベーッ」
と、 ながいしたで アカンベーを しました。
「うわーっ!!」
さむらいは ビックリして、 とびあがりました。
たいじするどころか にげだすのが せいいっぱいで、 ちゃみせを とびだすと、 ころがるように さかを かけおりて いきました。
そして、 さかしたにある ちゃみせに とびこむと、 ハアハアと、 いきを きらせて、 やっと はしらに つかまりながら、 そばの こしかけに こしを おろしました。
あまりにも こわかったので、 まだ、 ひざが ガクガクと ふるえています。
おくで はたらいている、 ちゃみせの おんなに こえをかけました。
「いやはや、 おそろしいかおじゃったわい。 たったいま、 せっしゃは じゅうばこおばけを みてきたぞ。 ねえさん。 おまえさんは こんなところにおって、 おそろしゅうは ないのかね」
「いいえ、 ちっとも」
おんなは ふりむきもせずに、 こたえました。
「そうかい。 わかいねえさんが こわくないとは、 おどろいたな。 だがそれは、 じゅうばこおばけが どんなもんか、 しらんからだろう」
すると、 そのおんなは、
「あら、 しっていますよ」
と、 いきなり クルリと、こっちを むいて。
「だって あたしも、 じゅうばこおばけですから。 ベーッ」
「ギャアアーー!!」
さむらいは とびあがると、 すごいはやさで まちへ にげかえったそうです。
おしまい
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