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5年生の日本昔話
木仏長者(きぼとけちょうじゃ)
むかしむかし、貧乏(びんぼう)な男が、長者といわれる大金持ちの家で働いていました。
長者の家には、りっぱな金の仏(ほとけ)さまがあります。
男はたいへん信心(しんじん→神仏(しんぶつ)を信仰(しんこう)する気持ち)深くて、
「なんてりっぱな仏(ほとけ)さまだろう。自分もあんな仏(ほとけ)さまを持っておがみたいものだな」
と、思っていました。
ある日、男は山へ仕事に行って、仏(ほとけ)さまそっくりの木の切れはしを見つけると、ひろって持って帰りました。
そして、自分のへやにお祭りしたのです。
毎日毎日、自分のおぜんをお供(そな)えして、おがんでいます。
でも、ほかのみんなはバカにして、男をいじめました。
男はたいへんよく働くので、このままいじめられて、よそにいかれては大変と、長者はこんなことを考えていいました。
「おまえさん。おまえさんのおがんでいる木の仏(ほとけ)さまと、わしの持っている金の仏(ほとけ)さまとを、一度、すもうをとらせてみようではないか。木の仏(ほとけ)さまが負けたなら、おまえは一生、わしのところで働くんだよ。そのかわり、もしわしの金の仏(ほとけ)さまが負けたなら、わしの持っている財産(ざいさん)は、みんなおまえにやるよ」
男はビックリです。
木の仏(ほとけ)さまの前へすわって、手を合わせていいました。
「大変なことになりました。あなたさまと金の仏(ほとけ)さまとが、おすもうをおとりになるのです。どうしましょう?」
わけを話しますと、木の仏(ほとけ)さまはいいました。
「心配するな。強い相手だが、わしは勝負をしてみるよ」
いよいよ、すもうをとる日です。
大きなへやで、金の仏(ほとけ)さまと木の仏(ほとけ)さまは、向かいあって立ちました。
長者が、どうしてすもうをとらせるのか、二つの仏(ほとけ)さまにその訳(わけ)をいってから、
「さあ、始め! はっけよい、このった!」
うちわをあげて、声をかけました。
すると、二つの仏(ほとけ)さまは、グラグラと動き出し、近寄(ちかよ)って組みあいました。
押(お)したり押(お)されたり、なかなか勝負がつきません。
長者も使用人のその男も、ハラハラしながら応援(おうえん)しました。
「金の仏(ほとけ)さま負けるな!」
「木の仏(ほとけ)さま負けるな!」
最初、金の仏(ほとけ)さまがゆうせいでしたが、そのうちに、金の仏(ほとけ)さまのからだじゅうが、汗(あせ)でびっしょりになってきたのです。
汗(あせ)だけでなく、足もフラフラです。
これは大変と、長者は大きな声で叫(さけ)びました。
「金の仏(ほとけ)さまが、そんな木ぎれの仏(ほとけ)さまに負けてどうするのです。がんばってください。がんばってください!」
けれど、金の仏(ほとけ)さまは、とうとう倒(たお)れて負けてしまいました。
疲れ果(つかれは)てて、起きあがる力もありません。
その間に、木の仏(ほとけ)さまは、今まで金の仏(ほとけ)さまが祭られていた仏(ふつ)だんの上へあがってすわりました。
「ありがたい、ありがたい」
みんなが、その木の仏(ほとけ)さまをおがみました。
負けた長者は、約束どおりに金の仏(ほとけ)さまを抱(だ)いて、家を出ていきました。
長者の家は、もう、使用人の男が主人です。
金の仏(ほとけ)さまを抱(だ)いた長者は、野原をトボトボと歩いていきました。
そして、金の仏(ほとけ)さまにいいました。
「おまえさんは、どうしてあんな木切れの仏(ほとけ)さまなんかに負けたのだね」
すると、金の仏(ほとけ)さまは答えました。
「相手は木の仏(ほとけ)ですが、毎日毎日、おぜんを供(そな)えてもらって信心されていた。それなのに、わたしは一年に、ほんの二度か三度、お祭りのときに供(そな)えてくれただけではありませんか。それに信心もしてくれない。力が出ないのは、あたりまえではないか」
金の仏(ほとけ)さまは、悲しそうに泣きました。
「・・・・・・」
長者も、返す言葉がありませんでした。
おしまい
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