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6月22日の小話
おたばこいれ
むかしむかし、一けんの家に、どろぼうが入りました。
さて、何かぬすもうかなと、あちらこちらみまわしましたが、この家には、たんすもなければ米びつに米もありませんし、みそおけにはみそもはいっていません。
「うむ、・・・それほど貧乏にはみえなかったが、いやはや、ひどい貧乏ぐらしだわい」
さすがのどろぼうも、あわれにおもって、ねている夫婦をゆりおこすと、
「おれはどろぼうだが、おまえたちが、あんまりにも貧乏なのには、おどろいた。おかしなはなしだが、少しめぐんでやろう」
と、銭を百文(いまの価値で、三千円ほど)ほどを、主人に手わたしました。
わずか百文でも、この夫婦には大金です。
二人はたいへん喜び、どろぼうをおがみながら、お金をうけとりました。
どろぼうは、すっかりいい気持ちになって、今日は帰ることにしました。
しばらくいくと、
「おーい、どろぼうー、どろぼうー」
と、先ほどの家の主人が、おいかけてきます。
「おのれ、おんをあだでかえす、ちくしょうのようなひとでなしめ。そばにきたら、まっぷたつにしてくれよう!」
と、刀のつかに手をかけて待っていると、ようやくおいついた主人が、
「どろぼうさま。さきほどはありがとうございました。あの、おたばこいれをおわすれです。はい」
おしまい