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8月6日の小話
かがみみせ
むかし、あるいなかの男が、江戸見物に行きました。
神田(かんだ)まで来ると、『かがみみせ』と書いた、かんばんが出ていました。
少しあわてものの男は、かがみというものを知らないので、それを、「かかみせや」と、読んでしまいました。
「さすがは、江戸じゃ。めずらしい商売があるわ」
男は、すっかり感心してしまいました。
「かかみせや」というのは、「かか」、つまり、およめさんを見せて、売るところだと、かんちがいしたのです。
江戸見物もすんで、村に帰った男が、いろいろ江戸のみやげ話をしているうちに、「かかみせや」の話になりました。
「なんだい、その『かかみせや』というのは、どうもあやしい。おらも江戸に行って、それを見て来てやる」
およめさんも、少しあわてものなので、さっそく江戸へ出かけて行きました。
「あの、かかみせやを知らんかね」
と、江戸中をさがしましたが、そんな店はありません。
そして、神田へ来た時です。
『かがみみせ』というかんばんの出ている店がありました。
「ああ、あれだな。『かかみせや』と、いうのは」
そこで、店の中にある、かがみを、ひょいとのぞくと、かがみの中に、じぶんの顔がうつりました。
「なんだ、これが、『かかみせや』の『かか』か。あんないなか女の、どこがいいもんやら」
ぶつくさ文句を言いながら、しばらく行くと、また、かんばんがありました。『ことしゃみせん(琴・三味線)』と、書いてあります。
それを見て、およめさんは、ますますはらを立てました。
「『今年は見せん』だと、まったく、江戸はへんなところだ!」
おしまい