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9月29日の小話
鉄砲とさいふ
むかし、むかし。
おかみ(天皇や将軍など、特別な地位にある人)に不幸があって、琴(こと)・三味線(しゃみせん)はもとより、鳴(な)りものいっさいまかりならぬという、きびしいおふれが出ました。
そのころ、ある村に、ひとりの狩人(かりうど→狩りで生活している人)がおりました。
キツネを取ろうと、鉄砲をかついで山を歩いておると、いきなりひとりの役人がとんできます。
「やい、やい! 鉄砲も鳴りものじゃぞ。鳴りものは、いっさいならぬということ、知らぬではあるまい。この、ふらち者めがっ!」
どなりつけるといっしょに、鉄砲をとりあげてしまいました。
「ど、どうぞ、おゆるしくだされ。おかみのおきてをやぶろうなどとは、とんでもござりません。どうぞ、どうぞ、鉄砲だけはおかえしのほどを」
と、わびたましが、役人は、いっこうにゆるしてくれません。
ですが狩人も、鉄砲がなければ、生活できません。
そこで狩人は、小銭を取り出すと、
「お役人さま。どうぞ、これを酒代にでも」
「なにっ。銭をくれるとな。いらぬ、いらぬ」
「さてさて、あなたさまは、なんとお役人らしくないお方じゃ。お役人さまは、そでの下(ワイロのこと)というものをおとりになって、年貢(ねんぐ→税金)さ、まけてくださるというもんじゃに」
と、いいながら、狩人は、さいふごと差し出し、
「どうぞ、どうぞ、今日のところは、これで」
「ほほう。今度はさいふごとくれるともうすか。なるほど、役人ならば、うけとらねばなるまい。だが、このつぎ見つけたら、ろうやヘぶちこむぞ。・・・うん、たんまり入っておる。いや、わしのような話のわかる役人にでおうて、まことに、おまえはしあわせ者じゃ」
いいながら、役人は鉄砲をほうりだすと、そそくさと帰っていった。
狩人は、大事な鉄砲がもどったので、大よろこび。
「だが、まてよ。どうも、あの役人、少しヘんだぞ。これはもしかすると・・・」
狩人は、相手のすがたが見えなくなると、ふところからワナを取り出して、そこにしかけておいた。
一夜があけました。
狩人が、いそいで山ヘやってくると、なんと、ワナにキツネが一ぴきかかっております。
おまけに、きのう役人にわたしたさいふまで、ちゃんと持っておりました。
おしまい