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11月18日の小話
黒があぶない
男が、碁(ご)をうつのをそばで見ておりました。
そのうちに、ご隠居さん(いんきょ→仕事を引退して、老後生活を楽しんでいる人 →詳細)のそばによっていって、
「黒があぶない、黒があぶない」
と、小声でおしえてやりました。
「なになに、黒があぶないだと? そうかな? 待てよ。相手が、こうせめてくれば、こう止めればいい。こうせめてくれば、こう防げばいい。なあーんだ、ちっともあぶなくないではないか」
と、ご隠居さんが言い返しました。
それでも、男が、
「いやいや、やっぱりあぶない」
「いや、あぶなくない」
「いやいや、やっぱりあぶない」
あんまりしつこいので、ご隠居さんは、とうとうおこりだし、
「しつこいお人だ、いったいどこがあぶないのだ!」
と、いいますと、
「左のはしの黒が、いまにも下におっこちそうだ」
おしまい