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4年生の日本民話(にほんみんわ)
キツネの倉(くら)
鹿児島県(かごしまけん)の民話(みんわ)
むかしむかし、あるところに、一人の男がいました。
男が荒地(あれち)を畑にしようと、ほり起こしていたら、
「ガチン!」
と、クワが思いっきり石をたたいたのです。
「しまった!」
クワがわれてしまったので、男はクワをなおしてもらうために、鍛冶屋(かじや)へ行きました。
その途中(とちゅう)、手に棒(ぼう)を持った子どもたちが、捕(つか)まえたキツネを叩(たた)いていじめていたのです。
「こら、お前たち、やめねえか。キツネがかわいそうだろう」
「おらたちが捕(つか)まえたキツネだ、おらたちの勝手だろう」
子どもたちは、キツネをいじめるのをやめません。
そこで男は、
「なら、そのキツネをおらに売ってくれんか?」
男はクワを鍛冶屋(かじや)でなおしてもらうためのお金を子どもたちにやって、キツネを買いとりました。
そしてキツネを子どもたちのいない所へ行って、逃(に)がしてやろうと思ったところで、ふと、我(われ)にかえりました。
「おらは、何をやっているんじゃ。新しい畑を作るにはクワがいる、そのクワをなおしてもらうには、鍛冶屋(かじや)にはらうお金がいる。でも、そのお金がなくなってしもうた。キツネがクワをなおしてくれるのならともかく。・・・こりゃ大変(たいへん)だ。キツネよ、悪いがそういう事だ」
男はまた、子どもたちのところへ行って、キツネを渡(わた)してお金を返してもらいました。
すると子どもたちは、前よりも、キツネをいじめるのです。
それを見かねて、男はまた子どもたちのところへ行くと、
「やめてくれ、今度は本当に買うから」
と、またお金を渡(わた)して、キツネを買い戻(かいもど)しました。
そしてキツネを山へ連(つ)れて行き、
「もう、二度と捕(つか)まるなよ」
と、言って、逃(にが)してやりました。
数日後、男の家に、あのときのキツネがやって来ました。
「この間は、あぶないところを助けていただいて、ありがとうございました。お礼に何か差し上(さしあ)げたいと思います。私(わたし)の家には、キツネの倉(くら)といって、何でも無(な)い物は無(な)いという倉(くら)があります。あなたの望(のぞ)みのものを、好(す)きなだけお持ち下さい」
と、いうので、男はキツネと一緒(いっしょ)に、キツネの倉(くら)へ行きました。
「これがキツネの倉(くら)です。どうぞ、中へ入って好(す)きなものをとって下さい」
喜(よろこ)んだ男が倉(くら)の中へ入っていくと、キツネが倉(くら)の戸をバタンと閉(し)めました。
そして、大きな声で、
「ドロボウだ! 倉(くら)にドロボウが入ったぞ!」
と、さけんだのです。
そして、あちこちからたくさんの人が集まってきて、
「ドロボウは殺(ころ)せー! ドロボウを殺(ころ)すんだー!」
と、言うのです。
倉(くら)に閉(と)じこめられた男は、ビックリ。
「ちがう、ちがう、おらはドロボウでねえ」
と、いいましたが、外の人たちは聞いてくれません。
「ドロボウは殺(ころ)せー! ドロボウを殺(ころ)すんだー!」
男はこわくなって、倉(くら)のすみっこでブルブルとふるえていました。
「だっ、だまされた。キツネにだまされたんだ」
しばらくすると、外の騒(さわ)ぎがおさまって、倉(くら)の戸がガラガラと開きました。
そして、さっきのキツネが、
「ビックリさせてすみません。さあ、クワでも着物でもお金でも、好(す)きなものを持てるだけ持って、出てきてください」
と、言いました。
男はわけがわからず、言われたまま、持てるだけの物を持って倉(くら)から出てきました。
「どうでした? さっき閉(と)じこめられた感想は」
「恐(おそ)ろしかった。生きた心地もしなかった」
男がそう言ったので、キツネは満足(まんぞく)そうにうなずくと、
「そうでしょう。実は私(わたし)も先日、同じ思いをしました。あなたに助けてもらったときは、心の底(そこ)から喜(よろこ)びましたが、その後でまた子どもたちに返されたときには、もう生きた心地はしませんでしたよ。そして再(ふたた)び、助け出されたわけですが、あの時のことを考えると、今でも体がふるえます」
と、言ったという事です。
おしまい
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