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3年生の日本民話(にほんみんわ)
龍神(りゅうじん)さまの掛軸(かけじく)
茨城県(いばらきけん)の民話(みんわ)
むかしむかし、ある村の平吉(へいきち)という男が、一本の掛軸(かけじく)を手に入れました。
この掛軸(かけじく)にえがかれているのは、雷(かみなり)のイナズマの中を天にのぼる墨絵(すみえ)の龍(りゅう)でした。
「この龍(りゅう)はのぼり龍(りゅう)といって、天にかけのぼる勢(いきお)いがあるので、とても縁起(えんぎ)の良(よ)い絵なんだ。持(も)っていると、きっと良(よ)いことがあるにちげえねえ」
と、平吉(へいきち)は、一人でよろこんでいました。
そしてこの掛軸(かけじく)を床の間(とこのま)にかけて、野菜(やさい)や米と、毎朝くみたて水をさかずきに入れて、おまいりしているのでした。
ある朝のこと、いつものようにさかずきの水を取(と)りかえようとすると、水がすっかりなくなっているのに気がつきました。
はじめはだれかがこぼしたのだろうと、あまり気にしませんでしたが、次(つぎ)の日も、その次(つぎ)の日も、なくなっているのです。
「まさか、この龍神(りゅうじん)さまは、水を飲まねえだろう。なにしろこの体だ、もし飲(の)むとすれば少なすぎる。・・・でも、もしそうなら、少し大きい茶わんにかえてやるとするか」
と、冗談(じょうだん)のつもりで、一回り大きな茶わんに水を入れることにしたのです。
ところが次(つぎ)の朝、茶わんを見ると、水はたしかになくなっていたのです。
おどろいて家の者(もの)たちに聞いても、だれも知らないといいます。
「龍神(りゅうじん)さまが飲(の)んだとすれば、この龍(りゅう)は生きていることになる。・・・まさかな。きっと、ネズミかネコが飲(の)んだにちがいない。・・・でも、もしもと言うことがあるな」
その日の夜、平吉(へいきち)は寝(ね)ないで見張(みは)っていたのですが、次(つぎ)の朝、いつのまにか水がなくなっていたのです。
「しまった、いつの間に! ・・・よし、見ていろ!」
そんなことが毎日続(つづ)いたのですから、平吉(へいきち)の目は血走(ちばし)り、ほおはくぼみ、まるで病人(びょうにん)のような顔つきになりました。
さて、ある夜のことです。
平吉(へいきち)が今日もがんばっていると、うす暗(ぐら)いあんどんの光りを受(う)けて、龍神(りゅうじん)さまが長い舌(した)で水をなめている姿(すがた)がボンヤリと見えたのです。
平吉(へいきち)はビックリして、その日から寝込(ねこ)んでしまいました。
それで心配(しんぱい)した家の人は、平吉(へいきち)にないしょで、この掛軸(かけじく)を別(べつ)の人にゆずってしまったのです。
この掛軸(かけじく)をゆずり受(う)けたのは、利平次(りへいじ)という男です。
利平次(りへいじ)は平吉(へいきち)の事(こと)は何も知りませんから、この掛軸(かけじく)を神(かみ)だなのわきに下げると、うれしそうに毎日ながめていました。
そのころ村は、日照(ひで)りつづきでこまっていました。
利平次(りへいじ)は、龍神(りゅうじん)さまは雨ごいの神(かみ)であると聞いていたので、ある日、だれにも見られないようにして、
「どうぞ、雨を降(ふ)らせてください。せめて、おらの田畑(たはた)だけでも」
と、自分勝手(じぶんかって)な願(ねが)いごとを言って、お神酒(みき→神前(しんぜん)にささげるお酒(さけ))をあげていのりました。
するとその日の夕方、空はにわかに暗(くら)くなり、激(はげ)しい雨とカミナリがおこったのです。
昼寝(ひるね)から目をさました利平次(りへいじ)は、滝(たき)のようなすさまじい雨とカミナリのあまりのすごさのに、その場で気を失(うしな)ってしまい、そのまま寝込(ねこ)んでしまったのです。
この話は、村中にひろがり、
「あの掛軸(かけじく)を一人で持(も)つと、とんでもねえことになるだ」
と、村人が集(あつ)まって、この掛軸(かけじく)を村の神社(じんじゃ)におさめることにしました。
そしてその掛軸(かけじく)を龍神(りゅうじん)さまとして、うやまうことにしたのです。
すると寝込(ねこ)んでいた二人の病人(びょうにん)も、日に日に良(よ)くなっていったという事(こと)です。
おしまい
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