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3月4日の日本民話
  
  
  
  嫁さんになったイチョウの木の精
  宮城県の民話 → 宮城県情報
 むかしむかし、ある村に、若い木こりがお母さんと一緒に住んでいました。
   ある日の事、今まで行ったことのない山へ行き、道にまよってしまいました。
   どうしようと思いながら歩いていると、遠くのほうに家のあかりが見えました。
   木こりが大喜びしてあかりのほうへ近づいて行くと、山の中とは思えないほどりっぱな家がたっていて、中から美しい娘さんが出てきました。
  「帰り道がわからなくてこまっています。今夜一晩とめてください」
   木こりがたのむと、娘さんは、
  「なんのおかまいもできませんが、どうぞえんりょなくとまっていってください」
  と、言いました。
   娘さんはおやじさんと二人で住んでいて、二人とも木こりをしんせつにもてなしてくれました。
   見れば見るほどきれいな娘さんで、木こりはこの娘さんがすっかり気に入ってしまいました。
   そこで思いきって、おやじさんにたのんでみました。
  「どうか娘さんを、おらの嫁にください」
   するとおやじさんも、木こりが気に入り、
  「大事にしてくれるなら、娘をあげよう」
  と、言ってくれたのです。
   木こりはとびあがって喜び、次の日、娘さんをつれて家に帰っていきました。
   嫁になった娘さんは、気だてがよくて、大変な働き者でした。
   木こりもお母さんもうれしくて、毎日が夢のようにすぎていきました。
   でもどういうわけか、娘さんの体はいつもつめたくて、まるで木にふれているみたいです。
   ある年の事、碁(ご)の好きな殿さまが、碁盤(ごばん)をつくることになり、
  《見事なイチョウの碁盤をつくったものには、ほうびをつかわす》
  と、いうおふれを出しました。
   それを聞いた木こりたちは、いっしようけんめいイチョウの木をさがしました。
   でも碁盤にできそうな木は、なかなか見つかりません。
   ところがこの若い木こりは、娘さんの住んでいた山の中で大きなイチョウの木を見つけました。
   木こりはよろこんで、そのことを嫁さんに話しました。
   すると嫁さんは、青くなり、
  「あのイチョウの木を切るなんてとんでもない! ほうびはほしくないから、やめてください!」
  と、言いました。
   それでも木こりはほうびがほしくて、その夜、嫁さんの止めるのも聞かずに飛び出して行きました。
  「よしよし、これほど見事な木なら、すごい碁盤ができるぞ」
   木こりはさっそく、木を切りはじめました。
   一晩かかって、やっと切り倒すと、その木を運びだすため家に戻ってきました。
   ところがどうしたのか、嫁さんの姿がありません。
   目をまっ赤になきはらしたお母さんが、ふとんの前でボンヤリとすわっています。
  「どうした? おっかさん」
   するとお母さんは、なみだを流して言いました。
  「お前が出かけてから、嫁がひどく苦しみだしてな。ふとんに寝かせてせなかをさすってやったが、みるみる細くなって、とうとう消えてしまったんじゃ」
  「・・・もしや」
   木こりも、ないてくやしがりました。
 嫁さんは、イチョウの木の精だったのです。
おしまい