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4月23日の日本民話
  
  
  
  いきをふきかける亡者
  青森県の民話 → 青森県情報
 むかしむかし、陸奥の国(むつのくに→青森県)の真行寺(しんぎょうじ)に、まだ修行中の若い僧がいました。
   ある冬の日のこと、夜おそくまで一人で勉強していると、部屋のしょうじに人のようなかげがうつりました。
  (はて、こんな夜中に何者だろう?)
   僧は、しょうじのすきまに目をあてました。
   するとそこには、まるでゆうれいのような女が、髪をふりみだしてたっていました。
   手をだらりと前にさげ、青白い顔がうらみをこめたようにひきつっています。
  (これが、亡者(もうじゃ)というものだろうか?)
   わかい僧は顔をこわくなり、頭からふとんをかぶりました。
   ヒューゥ、ヒューゥ。
   なんだかすきま風のような音がするので、ふとんの中からこっそり顔を出してみると、あの女がしょうじのやぶれたところに口をつけて、部屋の中に息をふきこんでいるのです。
   その息は雪のようにつめたく、部屋の中はどんどん冷えていきます。
   若い僧は、一心(いっしん)にお経(きょう)をとなえました。
   すると女はあきらめたのか、息をふきこむのをやめて部屋の前をはなれていきました。
  (ああ、こわかった)
   若い僧はホッとしてふとんからはいだすと、そっとしょうじを開けてみました。
   すでに女のすがたはなく、台所の方から火の明りがもれています。
  (おや? まだだれかおきているようだ。ちょうどいい、少しあたたまらせてもらおう)
   若い僧は手をこすりながら、台所の方へいきました。
   ところが、かまどに火がもえているのにだれもいません。
  (おかしいな)
  と、思いながらも、かまどの火に手をかざそうとしたら、目の前にさっきの女がいて、ニヤリとわらいかけたのです。
   若い僧は、
  「あっ!」
  と、さけんだきり、気を失ってしまいました。
   やがて夜が明けて、朝食係りの僧たちが、かまどの前でたおれている若い僧を見つけました。
  「おい、どうした? しっかりしろ!」
   やっと気がついた若い僧は、昨日の事をみんなに話した後、十日間も寝込んでしまったという事です。
おしまい