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5年生の日本民話
安珍清姫(あんちんきよひめ)
和歌山県の民話
♪音声配信(html5) |
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朗読者 ; 台湾居住者 Judy |
むかしむかし、安珍(あんちん)という名の若(わか)い旅のお坊(ぼう)さんが、紀州(きしゅう→和歌山県)の熊野大社(くまのたいしゃ)へおまいりするとちゅうで、とっぷりと日がくれて困(こま)っていました。
「今夜の宿を、どこかにさがさねば」
安珍(あんちん)は庄屋(しょうや)の家にとめてもらうことにしましたが、この家には清姫(きよひめ)という一人娘(ひとりむすめ)がいて、つかれた安珍(あんちん)をやさしくもてなしました。
そうこうするうちに、清姫(きよひめ)と安珍(あんちん)は、つよく心がひかれるようになりました。
しかし、修行中(しゅぎょうちゅう)のお坊(ぼう)さんが、女の人に心をうばわれるのはゆるされないことです。
でも安珍(あんちん)は、清姫(きよひめ)に、
「熊野(くまの)からの帰りには、かならずここによります。・・・あなたにあうために」
と、かたい約束をしてしまいました。
さて次の日、安珍(あんちん)はぶじに熊野大社(くまのたいしゃ)につきましたが、熊野(くまの)の僧侶(そうりょ)たちに安珍(あんちん)の心のまよいを見抜(みぬ)かれて、早くまよいからさめるようにと、教えさとされました。
「たしかに、わたしは修行中(しゅぎょうちゅう)の身、女に心をうばわれるなど」
そこで安珍(あんちん)は清姫(きよひめ)と会わないために、帰り道は、来るときとはちがう道をいくことにしました。
ところが清姫(きよひめ)は、そんな事とはつゆしらず、いまかいまかと安珍(あんちん)の帰りを待ちわびています。
「安珍(あんちん)さま。安珍(あんちん)さまは、どうなされたのじゃろう?」
待ちきれなくなった清姫(きよひめ)は、家を飛び出すと、見知らぬ旅人に声をかけました。
「あの、もし、熊野(くまの)もうでの若(わか)い旅のお坊(ぼう)さまに、お会いになりはしませんでしたか?」
「ああ、その方なら、たぶん別の道をいかれたと思うが」
「別の道を! あんなにかたい約束をしたのに、まさか。そんなはずが」
清姫(きよひめ)は、夢中(むちゅう)でかいどうを走りだしました。
それはもう、くるったように走って走って、走りつづけます。
そして日高川のわたし場まできたとき、やっと安珍(あんちん)のすがたを見つけることができました。
「安珍(あんちん)さまー。安珍(あんちん)さまー」
走ってくる清姫(きよひめ)に気づいた安珍(あんちん)は、清姫(きよひめ)には二度と会ってはならないのだと、自分にそういいきかせ、
「船頭(せんどう)さん、は、早く船を出してくだされ。は、早く!」
と、船頭をせきたてます。
「安珍(あんちん)さまーっ、安珍(あんちん)さま。なぜ、どうして、安珍(あんちん)さまー」
清姫(きよひめ)は自分から逃(に)げていこうとする安珍(あんちん)におどろき悲しみ、やがて、そのおもいは、はげしい憎(にく)しみへとかわっていったのです。
「これほど、これほどおもっているのに、なぜ逃(に)げるのです。なぜ、なぜ逃(に)げるのじゃ!」
清姫(きよひめ)は安珍(あんちん)ののった船を追って、そのまま日高川の水の中へ飛び込(とびこ)みました。
そしていつのまにか、清姫(きよひめ)はおそろしい大蛇(だいじゃ)の姿(すがた)になって、川をわたっていったのです。
「にっくき、安珍(あんちん)め!」
船をおりると、安珍(あんちん)はむちゅうで走り出しました。
そしてそれを追う、大蛇(だいじゃ)。
街道(かいどう)のそばに、道成寺(どうじょうじ)というお寺がありました。
安珍(あんちん)は必死の思いで、このお寺に逃げ込(にげこ)むと、
「どうか、わたしをお助けください。追われております。どうか、この寺へおかくまいください」
「それならば」
寺の人たちはつりがねをおろして、その中に安珍(あんちん)をかくまってくれました。
安珍(あんちん)はそのつりがねの中に身をかくし、しずかにお経(きょう)をとなえつづけます。
清姫(きよひめ)の大蛇(だいじゃ)は道成寺の石段(いしだん)をうねうねとのぼると、山門をくぐって安珍(あんちん)をさがしもとめました。
そうしてついに、大蛇(だいじゃ)は安珍(あんちん)の隠(かく)れるつりがねを見つけたのです。
「見つけたぞ、いとしい人。もうはなさない」
大蛇(だいじゃ)はそのつりがねの上から体をグルグルとまきつけると、大きな口からまっ赤なほのおをはきつづけたのです。
安珍(あんちん)は、まっ赤にそまるかねの中で、一心にお経(きょう)をとなえつづけます。
でも、ほのおでまっ赤になったかねの中で、とうとう安珍(あんちん)は、やけ死んでしまったのです。
おしまい
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