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5年生の日本民話
金を拾ったら
山梨県(やまなしけん)の民話
むかしむかし、あるところに、とても貧乏(びんぼう)な男が二人いました。
いくら働いても人に借りたお金も返せないで、もう、どうにもくらしていけなくなりました。
それである暗い晩(ばん)に、二人はそろって夜逃(よに)げをしたのです。
夜逃(よに)げをしてどこかへ行ってしまえば、借金を返さなくても大目にみてもらえるような時代でした。
二人はまっ暗な夜道をどんどん逃(に)げて、夜が明けるころには、だいぶ遠くまで来ました。
「このあたりまで来ればもうだいじょうぶ、追いかけられてつかまることもないだろう」
と、二人は、いくらか気持ちが楽になってきました。
それでいろいろと、お金に苦労した話などをしながら歩いて行きました。
「おれたちはお金で苦労したが、金は天下の回りものと言うからな。ここらで、そろそろ回ってきてもいいもんだか。・・・おい、もしおれがここでお金をひろったら、どうすると思う?」
一人が聞くと、もう一人が言いました。
「きまっているじゃないか。おれにも半分くれるだろ」
「とんでもない! ひろったらおれのものだ。お前なんぞにやるもんか!」
「なんだと。友だちだというのに、お金を一人じめしようというのか。お前がそんな欲(よく)ばりとは知らなかったぞ。おまえはまるで、イヌやネコと同じだ!」
すると相手は、かんかんにおこり出しました。
「イヌやネコとはなんだ! もう一度言ってみろ!」
「ああ、何度でも言ってやる。人間の心を忘(わす)れたやつは、イヌやネコと同じだ」
「もう、がまんできねえ!」
「おう、かかってこい!」
二人は道のまん中で、とっくみあいのけんかをはじめました。
そのとき、向こうから一人の旅人がやってきました。
「やめろやめろ、やめないか!」
旅人が、なんとか二人をひきはなすと、二人とも着物が破(やぶ)けてボロボロです。
「いったい、どうしたというんだ?」
すると、一人の男の人が言いました。
「友だちというのに、こいつはお金をひろっても、おれに少しもよこさないんだ!」
「なにをいいやがる。いくら友だちでも、おれのひろったものはおれのもんだ。お前になんかやるものか!」
「だからお前みたいな奴(やつ)は、イヌやネコと同じだというんだ」
「おれがイヌやネコなら、お前はイヌやネコにたかるノミだ」
「なんだと!」
「やるか!」
二人はまた、つかみあいをはじめようとしました。
「待て待て! あわてるんじゃない。わしがけんかをしないようにしてやるから、まず、ひろった金をここへ出してみろ」
すると二人は、あわてて言いました。
「いや、まだお金なんかひろっていない」
「そうだ。 もしひろったら、という話じゃ」
「はあ?」
それを聞いて、旅人は腹(はら)をかかえて大笑いしました。
「お前たちは、なんという欲(よく)ばりだ。ひろいもしないお金のことで、けんかをするなんて」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
二人の男の人は、なんの役にも立たないけんかをしたことがわかり、きまり悪そうに頭をかきました。
そして、おたがいに貧乏(びんぼう)のために心までちっぽけになっていたことに気がつき、それからは仲よく二人で旅をして行ったという事です。
おしまい
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