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5年生の日本民話
鬼(おに)が笑う
新潟県(にいがたけん)の民話
むかしむかし、ある村に、りっぱな屋敷(やしき)に住んでいるお金持ちがいました。
そしてその家のかわいい一人娘(ひとりむすめ)が、遠くの町へ嫁入(よめい)りすることになりました。
嫁入(よめい)りの朝、むかえのカゴが来て、花嫁(はなよめ)は乗りこみました。
そして母親や親戚(しんせき)の人たちが、大勢(おおぜい)カゴについて、とうげをこえて行きました。
ところが急に空が暗くなってきたかと思うと、黒雲がおりて来て、花嫁(はなよめ)の乗ったカゴをつつんでしまったのです。
そして黒雲は、そのまま花嫁(はなよめ)をさらって飛んで行ってしまいました。
母親は大事な娘(むすめ)をさらわれてしまったので、どんなことをしても娘(むすめ)をさがして助け出そうと思いました。
と、言っても、どこというあてはありません。
でも黒雲の飛んで行った後を追って、山でも野原でも林の中でも、さがして歩きました。
ある日の事、大きな川の近くの野原で、小さなお堂を見つけました。
そろそろ日がくれてくるころでしたので、母親はそこへ行って、
「もしもし、すみませんが、今夜ここにとめてもらえませんか?」
と、言ってみました。
すると中から、若(わか)い尼(あま)さんが出て来て、
「ふとんも食べる物もありませんが、こんな所でよかったら、どうぞおとまりください」
と、いってくれたのです。
せまいお堂の中に入ると、疲(つか)れていた母親は、すぐに横になりました。
尼(あま)さんは自分の着ていた衣を一枚(1まい)ぬいで、母親にかけてあげました。
そして、
「お前さんのさがしている娘(むすめ)さんは、川向こうにある鬼(おに)の屋敷(やしき)にさらわれています。川岸にイヌがいて番をしていますが、昼のうちはいねむりをしていることもありますから、そのすきをねらえばわたれないことはありません。けれど、その橋はそろばん橋といい、玉がたくさんついていますから、その玉をふまないようにしてわたって行きなさい。もし玉をふむと、命を落とすことになりますから、よく気をつけなければなりませんよ」
と、教えてくれたのです。
母親はどうして尼(あま)さんが娘(むすめ)のことを知っているのか不思議に思いましたが、ひどく疲(つか)れていたため、いつの間にかグッスリとねむってしまいました。
夜が明けて母親が目をさました所は、おどろいたことに、あたり一面にヨシのしげった野原で、お堂もなければ尼(あま)さんの姿(すがた)も見当たりません。
ふと見ると、そばには雨風にさらされた石塔(せきとう)が、一つありました。
「不思議なこともあるもの。とめてくださったり、娘(むすめ)のことを教えてくださったり。とにかくお礼をもうしあげなければ。何さまか知りませんが、どうもありがとうごさいました」
母親は石塔(せきとう)に向かってお礼を言ってから、尼(あま)さんに教えられたとおりに川岸へ行ってみました。
さいわい、イヌはいねむりをしていましたので、そろばん橋の玉をふまないように、そろそろと気をつけてわたりました。
ぶじに橋をわたりきってしばらく行くと、聞きおぼえのある機(はた)をおる音が聞こえて来ました。
母親はその音のほうに近づいて行って、娘(むすめ)の名まえを呼(よ)びました。
すると娘(むすめ)が、鬼(おに)の屋敷(やしき)から走り出て来たのです。
「お前、無事であったかえ」
「お母さん、どうしてここへ?!」
母親と娘(むすめ)は、だきあって泣きました。
鬼(おに)たちはちょうど、どこかへ出かけて行ってるすです。
娘(むすめ)は大いそぎで母親にご飯を食べさせると、鬼(おに)に見つけられないように、母親を石のひつの中にかくしました。
そして間もなく、鬼(おに)が帰って来ました。
鬼(おに)は家に入ると、どうも人間のにおいがすると言って、あたりをクンクンとかぎました。
「人間など、だれも来なかったよ」
娘(むすめ)がそう言っても、鬼(おに)は庭の花を見るために出て行きました。
この庭には不思議な花があって、家の中にいる人間の数だけ咲(さ)くのでした。
鬼(おに)が見てみると、今朝は一つだった花が二つ咲(さ)いていました。
鬼(おに)はカンカンにおこって、もどって来るとガラガラした声で、
「お前はどこかに、人間をかくしているだろう!」
と、言って、娘(むすめ)につかみかかろうとしました。
娘(むすめ)はどうしたらよいだろうかと、とっさに考えて、
「そ、それはきっと、わたしのおなかに赤ちゃんができたからよ。そのために、花が二つになったのでしょう」
と、言うと、今までおこっていた鬼(おに)は、急に飛びあがって喜び、大声を出してけらいたちを呼(よ)び集(あつ)めました。
「祝いじゃ! 酒を持ってこい! 太鼓(たいこ)も持ってくるんじゃ! 早くしろ! 川の番をしているイヌどもをたたき殺してしまえ!」
鬼(おに)はそうさけんで、飛び回りました。
たちまち大さわぎになりましたが、そのうち酒によいつぶれて、みんなねこんでしまいました。
娘(むすめ)は石のひつから母親を出すと、二人で鬼(おに)の家からいそいでにげ出しました。
川岸に着くと、船がつないであったので、それに乗って向こう岸へこいで行きました。
そのころ、ねむっていた鬼(おに)は、のどがかわいて目がさめました。
「おい、水をくれ!」
と、娘(むすめ)を呼(よ)びましたが、返事もなければ姿(すがた)も見えません。
娘(むすめ)が逃(に)げた事に気がついた鬼(おに)は、けらいどもを起こすと、一緒(いっしょ)に母親と娘(むすめ)の後を追いました。
川岸に着いて見ると、母親と娘(むすめ)の乗った船が、もう向こう岸の近くまで行っているのが見えました。
「それ、川の水をみんな飲んでしまうんだ!」
鬼(おに)はけらいたちに大声で言いつけると、大勢(おおぜい)のけらいの鬼(おに)たちは川に顔をつっこんで、ガブガブと水を飲み始めました。
すると川の水はたちまちにへって、母親と娘(むすめ)の船は、どんどん後もどりして来ました。
いよいよ鬼(おに)たちにつかまりそうになったとき、あの尼(あま)さんがどこからか現(あらわ)れて、
「お前さんたち、グズグズしていないで、早くおしりをまくって鬼(おに)どもに見せてやりなさい!」
と、言いました。
尼(あま)さんも一緒(いっしょ)になって三人が着物のすそをまくると、鬼(おに)たちにおしりを向けて、プリプリプリッとふって見せました。
さあ、それを見た鬼(おに)たちはゲラゲラと大笑いです。
そのために、飲んでいた水をすっかりはき出してしまいました。
そしてそのおかげで、船は向こう岸まで押し流(おしなが)され、母と娘(むすめ)はあぶないところを助かったのです。
ですが、不思議な尼(あま)さんはどこへ行ったのか、そのままいなくなっていたという事です。
おしまい
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