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        3年生の日本民話(にほんみんわ) 
          
          
         
キジムナーのしかえし 
沖縄県(おきなわけん)の民話(みんわ) 
       むかしむかし、沖縄本島南部(おきなわほんとうなんぶ)の宇江城(うえぐすく→糸満市(いとまんし))というところに、サメ殿(どの)とよばれた漁師(りょうし)がいました。 
   ある夜、海へでて漁(りょう)をしていると、すぐそばで、おなじように魚をとる人がいました。 
   近くの村の人なら、たいてい見おぼえがあるはずなのに、どうも見たことがありません。  
  (はて、誰(だれ)だろう?) 
   それからは、夜おそくに漁(りょう)へでるたびに、その男がやってきます。 
   そしてその男が現(あらわ)れると、魚がよくとれるのです。 
  「今夜も魚がたくさんとれたよ。あんたのほうはどうかね?」 
  「わたしだってとれたさ、見てごらん」 
   そのうちに二人は友だちになって、毎日のように、一緒(いっしょ)に漁(りょう)をしました。 
   ところがその友だちは、名前をいわないし、顔つきも口のききかたも、ふつうの人たちとちがいます。  
  (もしかしたらあの友だちは、人間ではないかもしれない) 
   ある時、サメ殿(どの)はそう考えました。 
   一度(1ど)考えはじめると、気味(きみ)が悪(わる)くなって、 
  (あれはきっと、ヤナムン(→沖縄(おきなわ)の言葉(ことば)で、妖怪(ようかい)のこと)が化(ば)けているのだ。このまま長いことつきあっていたら、悪(わる)いことがおこるだろう) 
  と、思いました。 
   サメ殿(どの)はある夜、漁(りょう)が終(お)わって友だちと別(わか)れたとき、こっそりあとをつけました。 
   すると友だちは、家のあるところを通りぬけて、当山(とうやま)という、さびしい丘(おか)へのぼっていきました。 
   そして大きなクワの木に、吸い込(すいこ)まれるように姿(すがた)を消(け)したのです。 
  「たいへんだ。やっぱり友だちは、人間ではねえ。あのクワの木にすむ、キジムナーが化(ば)けていたんだ」 
   キジムナーというのは、カッパのような妖怪(ようかい)で、古い木にすんでいて、魚とりがうまく、キジムナー火という火をともしたりもするそうです。 
   サメ殿(どの)は家にかえると、この事(こと)を妻(つま)にうちあけていいました。 
  「明日も漁(りょう)に行くから、お前はその間にほし草だの、ワラだのを持(も)って、クワの木に行き、それに火をつけてクワの木を燃(も)やしてしまうんだ」 
   さて次(つぎ)の夜、サメ殿(どの)と友だちとは、いつものように漁(りょう)にでかけました。 
   魚がとれはじめたとき、  
  「クンクン。どうもおかしい。家のこげるにおいがするよ」 
  と、友だちがいいだしました。 
  「そんなはずはないさ。ここからは何も見えないし、気のせいだろうよ」 
  「いや、たしかににおう。こうしてはいられない」 
   友だちは大いそぎで漁(りょう)をやめると、すぐに帰って行きました。 
   でもすでに遅(おそ)く、あの大きなクワの木はすっかり焼(や)けてしまい、まっ黒になっていました。 
   その日から、キジムナーの友だちは、姿(すがた)を消(け)してしまいました。 
   サメ殿(どの)は、これであの友だちと別(わか)れることが出来たと、大喜(おおよろこ)びです。 
   家をなくしたキジムナーは、すみかになる木をさがして、ずうっと北のほうの、国頭(くにかみ→沖縄本島北部(おきなわほんとうほくぶ))までいったそうです。 
   さて、それから何年もの月日がたちました。  
   サメ殿(どの)はある時、首里(しゅり→昔(むかし)の沖縄(おきなわ)の都(みやこ))の町へ出かけて、幼(おさな)なじみの友だちとあいました。 
  「しばらくぶりだ、酒(さけ)をのんで話そう」 
   二人して酒場(さかば)へ入り、長い時間のんでは話すうちに、サメ殿(どの)はつい気が大きくなり、今までだれにもいわなかった、あのキジムナーの事(こと)や、クワの老木(ろうぼく)を妻(つま)に焼(や)かせて追い出(おいだ)したことを、すっかりしゃべったのでした。 
   それを聞いた幼(おさな)なじみの友だちは、急(きゅう)にこわい顔になって、怒り出(おこりだ)しました。 
  「あんたは友だちに、そんなひどいしうちをしたのか! たとえキジムナーだとしても、あんたに何をしたと言うんだ! あんたはわるい男だ!」 
   見ると、そこにいるのは幼(おさな)なじみの友だちではなく、あのキジムナーだったのです。 
   キジムナーは持(も)っていた小刀で、サメ殿(どの)のゆびとゆびのあいだを切りつけました。 
  「いたい! 何をする」 
   このサメ殿(どの)は、全身(ぜんしん)がサメのようなザラザラのかたいはだをしていて、小刀くらいでは傷(きず)つかないのですが、ただ、ゆびとゆびのあいだだけが、ふつうのはだだったのです。 
   サメ殿(どの)は血(ち)を流(なが)しながら村へかえると、苦(くる)しんだあげくに、死(し)んでしまいました。 
   沖縄(おきなわ)のキジムナーは、ガジュマルやクワの大木をすみかとして、人間にはめったに害(がい)をしなかったといいます。 
   それどころか、人間に幸福(こうふく)をもたらしてくれるのです。 
   しかし、人間がうらぎったり、ひどいしうちをしたりしたときは、おそろしい仕返(しかえ)しをしました。 
   サメ殿(どの)は『鮫殿(さめどの)』と書き、沖縄(おきなわ)の言葉(ことば)では、サバムイと読むそうです。 
      おしまい         
         
         
        
       
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