|
|
3年生の日本民話(にほんみんわ)
たましいが入った竜(りゅう)
栃木県(とちぎけん)の民話(みんわ) → 栃木県情報
むかしむかし、宇都宮(うつのみや)に、うるし商人(しょうにん)の武太夫(たけだゆう)という男がいました。
今日は、すすはらいの日なので、武太夫(たけだゆう)は朝から畳(たたみ)を外へ出してたたいたり、家の中をそうじしたりして、体中がほこりだらけになっていました。
「おふろがわいておりますので、どうぞ」
と、奥(おく)さんがいうと、武太夫(たけだゆう)は、
「ふん! 一番湯(ゆ)は体によくない。隠居(いんきょ)のおやじを先にいれろ」
と、いうのです。
武太夫(たけだゆう)は大金持(おおがねも)ちでしたが、それにはわけがありました。
数年前のある日、山奥(やまおく)の谷川のふちの底(そこ)に、大量(たいりょう)のうるしを見つけたのです。
うるしは、うるしの木の皮(かわ)からとれる汁(しる)で、おわんなどのぬり物(もの)につかわれます。
そのうるしが長いあいだ水に運(はこ)ばれて、ふちの底(そこ)にたまったのです。
うるしは高価(こうか)なもので、無断(むだん)でとることを禁(きん)じられていましたが、武太夫(たけだゆう)はこの谷川の底(そこ)のうるしを少しずつ売り、大金持(おおがねも)ちになったのです。
武太夫(たけだゆう)は秘密(ひみつ)のうるしを、いつまでも自分だけのものにしておきたいと思いました。
それで腕(うで)のよい細工師(さいくし)に、おそろしい竜(りゅう)の細工をつくらせて、人がこわがってよりつかないように、うるしのあるふちの底(そこ)にしずめたのでした。
しばらくすると竜(りゅう)の細工は、上流(じょうりゅう)から流(なが)れてくるうるしや水あかなどがついて、おそろしい本物(ほんもの)の竜(りゅう)のようになっていました。
ある時、武太夫(たけだゆう)は十四歳(14さい)になる一人息子(ひとりむすこ)の武助(たけすけ)をつれて、山奥(やまおく)のふちへいきました。
そして、うるしの秘密(ひみつ)を話すと、
「このうるしは、わしらだけのものじゃ。わざわざ木を切りつけて汁(しる)をとらなくても、いくらでもここへたまっておる。いいか、わしがするのをよく見て、うるし取(と)りの練習(れんしゅう)をするんだぞ」
武太夫(たけだゆう)は息子(むすこ)にいいきかせて、親子でふちへ入っていきました。
すると竜(りゅう)の細工がとつぜん頭をあげて、息子(むすこ)にとびかかってきたのです。
細工の竜(りゅう)は水の中にいるうちに、たましいが入って、いつしか本物(ほんもの)の竜(りゅう)になっていたのです。
あわてた武太夫(たけだゆう)は息子(むすこ)を助(たす)けようとしましたが、竜(りゅう)が相手(あいて)ではどうにもなりません。
やがてふちの水の上に、二つの死体(したい)がうかびあがって、下流(かりゅう)へ流(なが)れていきました。
二人の死体(したい)は二日目になって、村に近い川原でひきあげられました。
取り調(とりしら)べの結果(けっか)、武太夫(たけだゆう)はうるしの盗(ぬす)みどりをしていたことがわかりました。
そして罰(ばつ)として、新しくたてたばかりの家や財産(ざいさん)は、すべてをとりあげられてしまったのです。
あとに残(のこ)された武太夫(たけだゆう)の父親と奥(おく)さんは、とてもまずしい生活を送(おく)ったという事(こと)です。
※ 宮城県(みやぎけん)にも、同じような民話(みんわ)があります。 → 生きている竜(りゅう)
おしまい
|
|
|