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11月8日の日本民話
お稲荷さんにかりたノコギリ
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むかしむかし、総理大臣(そうりだいじん)をつとめた松方正義(まつかたまさよし)は、政治家をやめてから鎌倉(かまくら)に別荘(べっそう)をたてました。
となりの林の中には、古いお稲荷(いなり)さんの社(やしろ)がありました。
別荘をたてた当時はたくさんならんでいたお稲荷さんの赤い鳥居(とりい)も、今ではくさったり、なくなったりして、社もあれはててボロボロです。
となりに引っ越してきた正義(まさよし)は、神仏をうやまう気持ちや神社に対する礼儀(れいぎ)から、その社を修復(しゅうふく)してお供(そな)えもしていました。
一九二三年(大正十二年)九月一日の正午、東京を中心とした関東地方に、とつぜん大地震がおそいました。
有名な、関東大震災です。
鎌倉の正義の別荘もくずれてしまい、正義は逃げるまもなく頭の上から落ちてきた太い柱の下じきになって足をはさまれ、身動きがとれなくなってしまいました。
若い書生(しょせい)さんたちが力をあわせて、正義を助けだそうとしましたが、柱はビクともしません。
助けるには柱を切るしか方法がないのですが、あいにくとノコギリがありません。
書生さんの一人がノコギリをさがしに、外へとびだしていきました。
でも、どこへいったらいいのかわからず、書生さんが家の前でウロウロしていると、となりの林のかげから白いあごひげをたらした背の高い老人が出てきました。
その老人はなんと、大きなノコギリを背負っているではありませんか。
書生さんは大喜びで、老人にそのノコギリをかしてほしいとたのむと、老人はだまって背中の大きなノコギリをわたしてくれました。
お礼を言った書生さんは、それをかついですぐにくずれた別荘に入り、柱を切って正義を助けだしたのです。
そして、借りたノコギリをかえそうと家から出ると、老人の姿はもうどこにもありませんでした。
この話を、病院へ運ばれる途中に聞かされた正義は、
「これはきっと、おとなりの稲荷の加護(かご)にちがいない。ありがたいことじゃ」
と、身を半分起こし、林の中の社にむかってふかく頭をさげました。
その後、借りた大きなノコギリは、社の中へきちんとかえしたという事です。
おしまい