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5年生の日本民話

娘の知恵でサル退治

(むすめ)の知恵(ちえ)でサル退治(たいじ)
三重県の民話

 むかしむかし、伊勢の国(いせのくに→三重県)におじいさんとおばあさんと娘(むすめ)三人がすんでいました。
 その娘(むすめ)の名は睦月(むつき)、如月(きさらぎ)、弥生(やよい)といい、三人とも、花もはじらう美人です。
 さて、ここから三里(さんり→約12キロ)はなれた山奥(やまおく)には、山の主といわれる大ザルが住んでいました。
 大ザルはいつのまにか、この娘(むすめ)たちが好きになりました。
 そして大ザルは山からおりて来ると、おじいさんとおばあさんにむかって、
「三人の娘(むすめ)さんのうち、誰(だれ)でもよいからわしの嫁(よめ)にくだされ、もしもいやなら、その場で一家五人を食い殺してしまうぞ!」
と、言うのです。
 おじいさんとおばあさんはガタガタとふるえながら、仕方なく、姉(あね)の睦月(むつき)を呼(よ)んで言いました。
「睦月(むつき)よ、お前、あの大ザルのところへ嫁(よめ)に行ってくれないかのう」
 すると娘(むすめ)は、ブルブルとふるえながら、
「どうかゆるして下さい。あんな恐(おそ)ろしい大ザルのところへ嫁(よめ)に行くのだけは」
 こまったおじいさんとおばあさんは、次に如月(きさらぎ)を呼(よ)び、
「如月(きさらぎ)よ、あの大ザルのところへ嫁(よめ)に行かないか」
「姉上さまさえこわくていけないのに、私(わたし)はごめんいたします」
 おじいさんとおばあさんは仕方なく、末娘(むすめ)の弥生(やよい)を呼(よ)んで言いました。
「弥生(やよい)よ、姉さま二人はいやだといっているのだが、お前はどうかな?」
と、聞くと、弥生(やよい)は言いました。
「どうぞご安心(あんしん)下さい。嫁(よめ)には私(わたし)がまいります」
 おじいさんとおばあさんはかわいそうに思いながらも、一家五人が食われてしまうよりはいいだろうと考え、入口で待っていた大ザルに、
「三番目の弥生(やよい)をお前にやることにしたが、いろいろ仕度(したく)もあるので、五日ほど待ってもらいたい。五日たったらむかえにきて下され」
と、言いました。
「よし、では五日たったらこよう」
 大ザルはよろこんで帰っていき、五日目の朝、三里の山道をキーキーいいながら来ました。
 きれいな花嫁衣装(はなよめいしょう)を着た弥生(やよい)が出ると、大ザルはその美しさに、ただ見とれるだけです。
 弥生(やよい)は大ザルにあいそ笑いをしながら、涙(なみだ)を流す二人の姉に小声で言いました。
「きっと帰って来るから、待っててね」
 弥生(やよい)は大ザルと一緒(いっしょ)に山をこえて、川をわたり、森をぬけましたが、なかなか大ザルの家には着きません。
 でも夜中になって、やっと大ザルの家に着くと、大ザルはニコニコ顔で掃除(そうじ)をしたり、朝ごはんを作ったりしました。
 やがて朝が来たので、弥生(やよい)は大ザルの作ってくれた朝ごはんを食べながらいいました。
「私(わたし)は、あなたのところへお嫁(よめ)に来てとっても幸せです。私(わたし)の喜んでいる姿(すがた)を家の人に見せたいので、一緒(いっしょ)にいきませんか?」
「ああ、いいよ。かわいいお前のためだ。さっそく行くとしよう」
と、急いでしたくをする大ザルに、弥生(やよい)が言いました。
「親の家に行くのだから、じいさまとばあさまの大好物のおもちを、ひと臼(うす)ついて持っていきたいのです」
「よし、わかった。かわいいお前のためだ。さっそくつくとしよう」
 大ザルは、ペッタン、ペッタンと、おもちをついてくれました。
「さあ出来た、この重箱(じゅうばこ)に入れていこう」
「じいさまとばあさまは、重箱のにおいがきらいなのです」
「そうか。では、どんぶりに入れていこう」
「じいさまとばあさまは、どんぶりのにおいが大きらい。臼(うす)のまま背負(せお)っていきましょう」
 そこで大ザルは臼(うす)を背負(せお)って、山道を下りはじめました。
 途中(とちゅう)、がけの上のほうに大きな美しい桜(さくら)の木が、今を盛(さか)りとさいています。
「あなた。じいさまとばあさまは桜(さくら)の花が大好きだから、一枝(ひとえだ)とって下さいな」
「ああ、木登りはまかせてくれ」
 木登りが得意な大ザルは、臼(うす)を背負(せお)ったまま木登りをはじめ、サクラの枝(えだ)に手をかけると、
「それではなく、もっと先のをおって下さいな」
「この枝(えだ)か?」
「いやいや、もっと先のをおって下さいな」
「では、この枝(えだ)ではどうじゃ?」
「いやいや、もっと先のをおって下さい。一番てっぺんの、あの枝(えだ)をおって下さいな」
「よし、わかった」
 大ザルはどんどん上に登り、とうとうてっぺんの枝(えだ)に手をかけたとき、
 ポキリ!
 足もとの枝(えだ)がおれてしまい、大ザルは重い臼(うす)を背負(せお)ったまま谷底ふかくまっさかさまに落ちてしまい、臼(うす)の下じきになって死んでしまいました。
 弥生(やよい)は急いで、おじいさんとおばあさんと二人の姉さんの待っている家に帰りました。
 みんなは手に手をとって大喜びで、もとのように仲よくくらしたという事です。

おしまい

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