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2月28日の世界の昔話

トラになった王さま

トラになった王さま
モンゴルの昔話 → 国情報

 むかしむかし、モーコ(→モンゴル)の草原に、まずしいヒツジ飼い(→詳細)の夫婦が住んでいました。
 子どもがなくて、さびしくくらしていましたが、ある日とつぜん、男の子が生まれたのです。
 二人は喜んで、さっそく、グナンという名まえをつけました。
 グナンは、生まれるとすぐ、歩きだしました。
 一時間ごとに大きくなって、一日もたたないうちに、ふつうのおとなよりも、もっと大きくなってしまいました。
 お父さんとお母さんは、それを見てこまりました。
 こんなに大きな子に、なにをたべさせたらいいのだろうと、心配になったのです。
 すると三日めに、グナンがいいました。
「お母さん、うちはびんぼうで、ぼくがいたら、食べ物にこまるでしょう。どこかへ働きにいかせてください」
 お母さんはいろいろ考えたあげく、王さまのところなら、つかってくださるかもしれないと、思いました。
 そこでお父さんとお母さんは、なみだを流しながら、グナンを旅にだしてやりました。
 グナンはとちゅうで、おなかがペコペコになりました。
 なにかたべるものはないだろうかと、思っていると、ふいに一ぴきのオオカミ(→詳細)が、とびかかってきました。
「これは、うまいごちそうだ」
 グナンは、こわがるどころか喜んで、そのオオカミをやっつけると、肉を焼いてたべてしまいました。
 それからまた、ドンドン歩いていきました。
 やがて、王さまのご殿につきました。
 王さまはグナンを見ると、ひとつためしてやろうと思って、ウシを一頭、まる焼きにしてだしました。
 するとグナンは、ニコニコしながら、その肉をペロリとたいらげてしまったのです。
 これを見て、王さまはグナンを、自分のおそばつきの家来にしました。
 おそばつきになったグナンは、それからはいつも王さまのおともをして、遠い森へ狩りにいっては、みごとなえものをしとめました。
 ある日のこと、王さまといっしょに、深い森にいったときです。
 ふいにしげみの中から、目を光らせたトラがおどりでてきました。
 王さまは、ビックリ。
 ウマにムチをあてると、命からがらにげだしました。
 家来たちもあわてふためいて、われさきにと頭をかかえてにげました。
 けれども、グナンはおちついたものです。
 とびかかってきたトラの片足をつかんで、ブルンブルンとふりまわし、そばの大きな木をめがけてたたきつけました。
 さすがの大トラも、そのまま死んでしまいました。
 王さまは家に帰りついても、まだウマにしがみついたままで、おりることもできません。
 家来たちがやっとのことで、ウマからはなして助けおろしました。
 ちょうどそこへ、グナンが死んだトラをかついでもどってきました。
 それを見ると、王さまは腰をぬかすほどおどろいて、
「みなのもの、はやく入り口をまもれ。トラを入れるな」
と、ふるえた声でいいました。
「あのう、死んだやつでも、いけないんですか?」
 グナンがそういうと、
「なんだ、はやくそういえばいいのに」
と、王さまはプンプンとおこりました。
 そして、王さまはそのトラの皮で、りっぱなしきものをつくりました。
 しいてみると、なんともいえない、いい気持です。
(こんどはひとつ、トラの王の皮で、わしのきものをつくってみよう。それをきたら、さぞすばらしいだろうなあ)
と、思うと、ほんとうにほしくてたまらなくなりました。
 そこで王さまは、グナンをよんで、
「三日のあいだに、トラの王をとらえてこい。とらえてこなければ、おまえの命はないぞ」
と、いいつけました。
 さあ、グナンはこまってしまいました。
 なにしろ、トラの王さまというのが、いったいどんなやつで、どこにいるのか、けんとうもつきません。
 そうかといって、三日のうちにとらえてこなければ、命はないというのです。
 グナンがホトホトこまっていると、
「グナンや。心配することはない。この、あしげのウマに乗っていきなさい」
と、いう声がしました。
 ふりかえってみると、一人のおじいさんがいました。
「トラの王は、遠い北の山のほら穴の中にいる。さあ、これに乗っていきなさい」
 そういうと、おじいさんのすがたは消えて、あとにはあしげのウマだけがのこっていました。
 グナンはさっそく、そのウマに乗って出発しました。
 ウマは、とても走りがはやく、まるではなたれた矢のように走りました。
 しばらく走っていくと、ふいに、
「助けてえ!」
と、いう、子どもの声がしました。
 それは、むこうに見える家のそばから聞こえてきました。
 見ると、一ぴきのオオカミが、女の子にとびかかろうとしています。
 グナンはウマに乗ったまま、いそいで弓に矢をつがえてはなちました。
 矢はみごとに、オオカミの頭にあたりました。
 子どもは、ぶじに助かりました。
 このとき、家の中から子どものお母さんがかけだしてきました。
 そして、子どもが助かったのを見ると、お礼にヒツジの骨をさしだしていいました。
「うちはびんぼうで、なにもお礼することができません。せめて、このヒツジの骨をお持ちください。お役にたつときが、きっときます」
 グナンはそれをうけとると、また北ヘむかってウマを走らせました。
 しばらくすると、大きな川にでました。
 わたる橋も、乗る船もありません。
 そのとき、大きなカメが川の中からあらわれて、
「おまえには、この川はわたれないだろう。はやく家に帰りなさい」
と、いいました。
「いや、なんとかして、わたってみせる」
 それを聞くと大ガメは、川の中からはいだしてきて、グナンにいいました。
「なかなか、しっかりした若者だな。ひとつ、おまえにたのみがある」
「ぼくに、できることなら」
「わしの左の目が、いたくてたまらん。この目玉を新しいのととりかえたいのだ。てつだってくれないか?」
「いいとも、てつだってやろう」
 グナンは、カメの目玉をほじくりだしてやりました。
 そのとたん、カメは一ぴきのリュウになって、
「ありがとう。おかげでさっぱりした。その目玉を持って、川をいきなさい」
と、いうと、天ヘとびさっていきました。
 グナンが手の中の目玉を見ると、キラキラとかがやく、スイショウの玉にかわっていました。
 グナンはいわれたとおりに玉を持って、ウマを走らせて、川の中にとびこみました。
と、ふしぎなことに、川の水は玉にあたって、さっと二つにわかれました。
 川のまんなかに、道があらわれたのです。
 グナンはウマにまたがったまま、らくらくと、川をわたることができました。
 しばらくいくと、ある家の前で、ヒツジ飼いのおじいさんがなみだを流していました。
「おじいさん。どうかしたんですか?」
 グナンは、ウマをとめて聞きました。
「はい。娘がきのう、トラの王にさらわれてしまいました」
と、おじいさんはこたえました。
「なにっ。トラの王だって。では、やつの住みかも近いにちがいない。おじいさん。わたしがきっと、助けだしてあげます」
 そういうなり、グナンはウマにムチをあてて、北にむかってとぶようにかけていきました。
 日がくれかかったころ、グナンは、トラの住みかを見つけました。
 トラは、山の上の岩のほら穴に住んでいました。
 その入り口には、十なんぴきものトラが、番をしています。
 グナンがほら穴に近づくと、番をしていたトラが、うなり声をあげておそいかかってきました。
 グナンが持っていたヒツジの骨を投げてやると、トラはいっせいに骨に集まりました。
 そのすきに、グナンはほら穴の中にとびこみました。
 ほら穴のおくには、一人の娘がすわっていました。
 グナンを見ると、ビックリして、
「さ、はやく、にげてください。トラの王は朝でかけて、もう帰るころです」
「いや、あなたを助けるのがさきです。さあ、はやくこのウマに乗ってください」
 二人がほら穴をでると、トラどもは、まだヒツジの骨をうばいあってたベています。
 グナンはウマにムチをあてて、風のように山をかけおりました。
 このとき、とつぜんあやしい風がふきだしました。
 ふりかえって見ると、ものすごいかいぶつが追いかけてきます。
 そのかいぶつは、頭はトラで、からだは人間、おまけにからだじゅうに、金色の毛がはえているのです。
 これが、トラ王なのです。
 グナンはウマを走らせたまま、ふりむきながら矢をはなちました。
 矢はトラ王の片目にあたり、おこったトラ王はひと声ほえたてると、ツメをのばして、グナンをウマからひきずりおろしました。
 そして地面の中へ、腰までめりこませてしまいました。
 グナンは、すぐにもがきでると、こんどは反対に、トラ王を首までめりこませてしまいました。
 そしてトラ王の頭の上に、大きな岩をドシン! と、投げおとしました。
 さすがのトラ王も、これで死んでしまいました。
 グナンは、死んだトラ王をひきずって、娘の家にもどりました。
 するとおじいさんは、グナンに、
「ほんとうに、娘を助けてくださって、お礼のことばもありません。どうか、この娘をよめにもらってください」
と、いいました。
 娘は、グナンのお嫁さんになりました。
 グナンはトラの王をころして、おまけに美しいお嫁さんまでつれて、王さまのもとに帰ってきました。
 王さまはそれを見ると、こんどはねたましくなりました。
 そこでさっそく、グナンにいいつけました。
「おまえの妻(つま)に、トラ王の皮でわしのきものをつくらせろ。そのとき、トラの毛が一本でもぬけ落ちたら、罰(ばつ)として妻をさしだせ」
 グナンのお嫁さんは、その命令どおりに、トラ王の皮できものをぬいあげました。
 王さまはその皮のきものを見ると、すっかり喜びました。
 国じゅうの人びとに、このきものをきた自分のすがたを見せて、じまんしたくなりました。
 そこで命令をだして、国じゅうの人びとを集めました。
 いよいよ、にぎやかな宴会(えんかい)がはじまりました。
 音楽が高らかになりひびくと、王さまは高い台の上に立って、サッと手をふりました。
 それをあいずに、つつみをささげた家来がしずかに台にのぼって、中から金色に光るトラ王の皮のきものをとりだしました。
 家来は、人びとの前に三度ふりかざして見せてから、王さまのからだにきせかけました。
と、そのとたん、王さまの口は見る見るさけて、ほんもののトラになって、ウォーッと、ほえたのです。
 人びとは、ビックリ。
 いちもくさんに、にげだしました。
 トラは、ヒラリと台からとびおりると、にげまどう人びとを追いまわしました。
 グナンは、どうしていいかわかりません。
 そのうちにトラは、ますますあばれまわり、人びとのなきさけぶ声は高くなりました。
 もう、これまでです。
 グナンは、トラを退治しようとけっしんしましたが、弓も矢も持っていません。
 どうしようかと思っているうちに、そのトラが、グナンめがけておそいかかってきました。
 けれどグナンは、すこしもおそれません。
 トラのしっぽをつかまえると、ブンブンとふりまわして、地面へ一気にたたきつけました。
 それを見て、人びとはまた、集まってきました。
 そしてトラの死がいを、地面の下に、深くうずめてしまいました。
 それからのちは、この草原にも、平和な毎日がつづくようになりました。
 グナンは美しい妻をつれ、あしげのウマに乗って、お父さんお母さんのまっているわが家に帰っていきました。

おしまい

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