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6月1日の世界の昔話
コルニーユじいさんの秘密
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むかしむかし、平和で楽しい村がありました。
村の人たちはみんな仲良しで、日曜日には教会に集まり、おいのりした後には歌ったりおどったりします。
畑仕事も、力をかしあいます。
村の人たちは、いつもみんなが幸せでいられるように考えて、くらしていたのでした。
そして、畑でとれたムギは粉ひき小屋に持って行き、粉にしてパンを作って焼いて食べました。
この村にはたくさんの粉ひき小屋があって、大きな風車(ふうしゃ→詳細)がクルクルと風に回り、村の人たちの歌にあわせるように、ゴトンゴトンと粉ひきうすが音を立てていました。
コルニーユじいさんも、粉ひき小屋で孫のビベットと、元気よく働いていました。
コルニーユじいさんは、粉ひきの仕事が大好きで、六十年もこの仕事をしているのに、いつでも大はりきりでした。
ところがこの村に、粉ひき工場ができたのです。
工場にムギを持って行くと、あっというまに機械(きかい)で粉にしてしまうのです。
村の人たちは、その方が早くパンも作れるし、待っている間がみじかくていいと、だんだんムギを工場に持って行くようになりました。
村にたくさんあった粉ひき小屋は、一つまた一つと、うすをまわすのをやめてしまいました。
ムギを持ってきてくれる人がいなければ、仕事にならないからです。
仕事にならなければ、お金がはいらないので、くらしていけません。
それで、粉ひき小屋はとりこわされ、次々と畑に変わっていきました。
まるで風車の村だったのに、とうとう風車は一つだけになってしまいました。
それは、コルニーユじいさんの風車です。
コルニーユじいさんは、
「風車がクルクルまわって、うすがゴトンゴトンと音をたてて粉を作るのさ。その粉で作ったパンでなきゃ、うまいはずがない」
と、ブツブツひとりごとを言って歩くようになりました。
それを見た村の人たちは、
「かわいそうに。仕事がなくて、コルニーユじいさん、頭がおかしくなったのかねえ」
と、うわさしました。
コルニーユじいさんが何を考えているのか、孫のビベットにもわからなくなりました。
だって、あんなにかわいがってくれていたのに、
「ビベット、わしは一人でくらしたくなった。お前は出ていってくれ。そしてもう、二度とここへは来るな」
と、いきなりそう言ったのですから。
ビベットは、追いだされるように粉ひき小屋を出て、村のすみの小さな家でくらすようになりました。
コルニーユじいさんのくらしは、誰が見てもひどいものでした。
やせこけて、洋服はボロボロ、クツも穴があいているのを、何ヶ月もはいているのです。
けれど不思議なことに、風車は前と同じように、クルクルと楽しそうにまわっています。
それに、コルニーユじいさんは朝になるとロバ(→詳細)を連れて村を出て行き、帰りにはふくらんだ袋をロバの背中につんでいるのでした。
「コルニーユじいさん、いそがしそうだね」
村の人が声をかけると、コルニーユじいさんはニコニコと笑ってこたえます。
「ああ、隣(となり)の村やそのむこうの村から、いっぱい注文(ちゅうもん)があってね」
「そうかい、大変だね」
村の人たちはそう言ったあと、みんな心の中で思いました。
(そんなにもうかっているのなら、洋服やクツを買いかえればいいのに)
ビベットも、もちろんそう思いました。
でも、様子を見にいっても、コルニーユじいさんはドアにカギをかけて、中にはいれてはくれません。
ビベットは、そんなにいそがしく働いているおじいさんの体が、心配でたまりませんでした。
だから、ことわられても、ことわられても、会いにいきました。
そんなある日のこと、ビベットは友だちの男の子と、コルニーユじいさんの粉ひき小屋に行きました。
おじいさんはるすでした。
ビベットと男の子は、はしごにのぼり、開いているまどから中にはいってみることにしました。
そして二人は、粉ひき小屋の中で、
「あっ!」
と、言ったまま、立ちつくしてしまいました。
なんと、粉ひきうすの中にはムギ一つぶもなく、ただ風車が風にクルクルとまわっているだけだったのです。
それに、小屋のすみにころがっている袋には、ムギではなく土がはいっていたのです。
「これ、おじいちゃんがロバに乗せて持ってくる袋よ」
「ビベット、君のおじいさんは、ムギをひくようたのまれているふりをしていたんだね。どんなにびんぼうになっても、粉ひきをしたがったんだね」
「かわいそうなおじいちゃん」
ビベットは、ポロポロと涙を流しました。
そして、二人は粉ひき小屋を出ると、村の人たちに粉ひき小屋で見てきたことを話しました。
村の人たちは、誰もが目に涙をためて、うなづきました。
「そういえば、工場ができてから村は変わったわ」
「コルニーユじいさんの気持ちを、考えてあげることもしなかつたよ。気のどくなことをした」
村の人たちはムギを袋につめて、コルニーユじいさんの粉ひき小屋にむかいました。
コルニーユじいさんは、もう動く力もなくて、小屋の前でションボリとすわっていました。
「なあ、コルニーユじいさん、うちのムギを粉にしとくれよ」
村の人たちが袋をさしだすと、コルニーユじいさんの目はたちまち輝きました、
「おおっ! ムギかい! ムギだな! 待っていろよ、とびきりおいしい粉を作ってやるからな」
おしまい