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5年生の世界昔話
世界一美しい物
オランダの昔話 → オランダのせつめい
むかしむかし、オランダの海ぞいに、それはそれはにぎやかな町がありました。
毎日たくさんの荷物をつんだ船が、出たり入ったりしています。
お金持の人も、おおぜい住んでいました。
その中でも一番のお金持は、ある、わかいおくさんでした。
このおくさんは、ご主人がなくなってからは、一人でくらしていました。
美しい人でしたが、ただこまったことに、たいへんうぬぼれがつよかったのです。
おくさんは、たくさんの船を持っていました。
住んでいる家も、町で一番大きくてりっぱな家でした。
家のかべには、すばらしい絵がかかっており、床にしいているじゅうたんも、とても上等なものでした。
食事のときには、金と銀のお皿で食べるのです。
ある日、おくさんは年とった船長をよんで、
「あなたは、これから世界じゅうをまわってきてください。わたしの船をみんなつれてね。そして、あなたが世界一美しいと思ったもの、世界一とうとい思ったものを持ってきてください。でも、一年したら、かならず帰ってきてくださいよ」
と、いいました。
船長はすぐに、世界一周の旅にでました。
町の人びとは、それからというもの、
「あの船長は、どんな宝(たから)ものを持ってくるだろう?」
と、そればかり、はなしあっていました。
一年がたちました。
ある日、見はりのものが、
「船が帰ってくるぞー!」
と、さけびました。
町じゅうの人びとが、船つき場に集まりました。
わかいおくさんも、むかえにでてきました。
人びとは、おくさんのために、うやうやしく場所をあけました。
美しいおくさんの目は、ギラギラとひかっていました。
船長が、どんな宝(たから)ものを持ってきたか、はやく見たくてたまらなかったのです。
しらが頭の船長は、ボウシを手にして、おくさんの前にすすみでました。
「おくさま、ただいまもどりました」
「あいさつはいいわ。それで、なにを見つけてきてくれましたか?」
「はい。ながいながいあいだ、わたくしは、世界中を旅して、いろいろな宝(たから)ものを見ました。しかし、どれもこれも世界一美しいもの、世界一とうといものとは思われませんでした。わたくしは、もうすこしであきらめてしまうところでした」
と、船長はさらに、はなしつづけました。
「ところが、バルト海のある港にはいっていったときのことでございます。穀物(こくもつ)畑が見わたすかぎり、ひろびろとひろがっておりました。ムギの穂(ほ)は、風をうけて波のようにゆれていました。太陽はあたりいちめんに、こがね色の光を投げていました。これを見たとたん、わたくしは穀物(こくもつ)こそ、わたくしたちのまいにちのパンをつくる穀物(こくもつ)こそ、世界一美しいもの、世界一とうといものだと思いました。そこで、船いっぱいに小麦をつんでまいりました」
「なんだって!」
おくさんは、まっかになっておこりました。
「穀物(こくもつ)を持ってきたって。バカ! トンマ! マヌケ! そんなことのために、一年も世界を歩きまわったのかい」
船長は、しずかにこたえました。
「はい。わたくしは一年かかって、ようやく、世界でいちばんたいせつなものは、穀物(こくもつ)であることに気がつきました。神さまが、こがね色に波うたせている、あの穀物(こくもつ)でございます。あれがなくては、わたくしたちがまいにちたべるパンもつくれません」
「ええい。そんなものは、海にすてておしまい!」
と、おくさんはどなりました。
「それから船長、おまえもいっておしまい。おまえは首にします。おまえの顔なんか、もう二度と見たくない!」
船長はだまって、どこかへいってしまいました。
船乗りたちは、穀物(こくもつ)を海にすてはじめました。
そのときとつぜん、やせたしらが頭のおじいさんが、おくさんの前にすすみでました。
おじいさんは片手(かたて)をあげて、ひくいけれども、あたりの人にもハッキリと聞こえる声でいいました。
「気をつけなさい。神さまからのいちばんとうといおくりものをすてたりすれば、かならずバチがあたる。よく考えてみなさい。世の中には食べ物がなくて、腹(はら)をすかしている貧乏人(びんぼうにん)も、おおぜいいるのだ。おまえさんだって、いつ貧乏(びんぼう)になるかもしれない。気をつけなさい」
美しいおくさんはカラカラと笑って、自分の指から、世にもすばらしい宝石(ほうせき)のついた指輪をぬきとりました。
そしていきなり、それを海の中に投げこんでしまいました。
「ふん! 海はこの指輪を、わたしにかえしてはくれないでしょう。でもわたしは、貧乏(びんぼう)にはなりませんよ。さあ、さっさと荷物をすてておしまい」
こうさけぶと、おくさんは頭を高くあげ、胸(むね)をそらせて帰っていきました。
しばらくして美しいおくさんは、大きなパーティーを開きました。
そのあたりのお金持の人たちは、のこらず集まってきました。
宝石(ほうせき)はピカピカとかがやき、絹(きぬ)の衣装(いしょう)はキラキラと光りました。
みんなは、飲んだり食べたり、大さわぎをはじめました。
そのとき、一人のめしつかいが、大きなお皿をはこんできました。
お皿には、大きな大きなさかなの丸あげが乗せてありました。
おくさんはさっそく、さかなを切りはじめました。
ところが、ひときれ切ったとたん、ビックリして、
「あっ!」
と、さけんだのです。
みんな、お皿のまわりに集まってきて、さかなを見つめました。
だれもかれも、あっけにとられて口もきけません。
さかなのおなかの中には、指輪がキラキラ光っていたのです。
しばらく前に、おくさんが海の中に投げこんだ、あの指輪だったのです。
海が指輪を、おくさんにかえしたのです。
あくる朝、おくさんの船があらしにあって、みんなしずんだという知らせがとどきました。
でも、これはほんのはじまりで、不幸せなことはつぎからつぎへとつづいて、おくさんはどんどん貧乏(びんぼう)になりました。
こうして、一年がたったときには、わかくて美しくてうぬぼれやのおくさんも、とうとうこじきになってしまったのです。
おくさんのいた町もさびしくなって、いつのまにか、なくなってしまいました。
穀物(こくもつ)の投げこまれた船つき場のあたりは、いまは砂(すな)でうまっています。
もうここには、一そうの船もやってきません。
一年たつと、そこにムギ畑ができました。
けれども、この畑のムギの穂(ほ)は、中がからっぽでした。
おしまい
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