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10月15日の世界の昔話
魔法使いの弟子
ドイツの昔話 → 国情報
むかしむかし、魔法使いとその弟子が二人で住んでいました。
ある日、魔法使いは出かけるときに、弟子に言いつけました。
「風呂の水を、いっぱいにしておくように」
魔法使いの姿が見えなくなると、弟子はソファーにゴロンと横になりました。
「あーあ、川からバケツで水をくんで来て、風呂をいっぱいにしておくなんて面倒だなあ。毎日毎日仕事をを山ほど言いつけられて、いやになっちゃうよ。・・・そうだ!」
弟子は、ある名案をひらめきました。
「そうそう、ぼくは魔法使いの弟子なんだ。こういうときこそ、覚えた魔法を使ってみなきゃ」
弟子はソファーから飛び起きると、ほうきにむかって魔法の言葉で命令しました。
「ほうきよ、ほうき。川の水をバケツでくんで来い。そしてその水を風呂にいれるのだ!」
するとほうきから小さな手が出てきて、バケツをつかむと、ヒョッコリ、ヒョッコリと歩き出したのです。
「よし、うまくいったぞ! これでぼくも一人前の魔法使いだ!」
弟子は大喜びです。
魔法のほうきはバケツをさげて、川へ走って行きます。
そして川の水をバケツにくむと、ヒョッコリ、ヒョッコリともどって来るではありませんか。
弟子はうれしくてたまりません。
魔法のほうきは、くんできた水を風呂にザザーッといれると、また家を出て川へ走って行きます。
「ああ、らくちんだったら、らくちんだ。魔法をつかえば、らくちんだ!」
弟子はバケツを持って何度も行ったり来たりする魔法のほうきに、手拍子(てびょうし)をとりながらおどりました。
風呂の水は、あっという間にいっぱいになりました。
「さあ、おわったぞ」
弟子はニッコリ笑って、ソファーでまた昼寝をしようと思いました。
ところが、魔法のほうきは止まりません。
風呂の水はいっぱいで、もうあふれてしまうというのに、バケツに水をくんで来ては風呂にいれるのです。
風呂からあふれた水が、廊下(ろうか)に流れ出ました。
「ああ、もうおしまいだってば!」
弟子が命令しますが、ほうきはいうことを聞きません。
もう、家の一階はプールのように水がたまっていました。
「このままじゅあ、怒られてしまうよ。・・・えーと、魔法をとく言葉はなんだっけ? ・・・えーと、えーと」
どうしても、魔法をとく言葉が思い出せません。
「ええーい、こうなれば、ほうきをこわしてやる!」
弟子はオノをもって来ると、魔法のほうきをまっぷたつに切りました。
そのとたん、魔法のほうきは二つにふえて、今までの二倍の水を運んできます。
「えい、えい、はやくとまれ!」
弟子がオノでほうきを切るたびに、ほうきはドンドンふえていって、ドンドン水を運んできます。
「あーん、これじゃおぼれちゃうよー」
弟子は二階へ逃げようと、階段をかけ登りました。
そのとき、魔法使いが帰って来ました。
「なんだ、これは! さては、弟子のしわざだな」
ビックリした魔法使いは、あわてて魔法の言葉をとなえました。
「ほうきよ、止まれ! 水よ、消えろ!」
そのとたん、風呂からあふれた水はパッとなくなり、ほうきももとのほうきにもどりました。
「あの、その、・・・ごめんなさい」
階段の手すりにしがみついていた弟子は、魔法使いにあやまりました。
魔法使いは弟子の頭をコツンとたたくと、大きなため息をついていいました。
「やれやれ、風呂の水くみをいやがるようじゃ、一人前の魔法使いにはなれないぞ」
おしまい