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12月2日の世界の昔話
  
  
  
  けものたちの、ないしょの話
  アフガニスタンの昔話 → 国情報
 むかしむかし、足の悪いひとりの旅人が、けわしい山道を、びっこをひきながら歩いていました。
  
   そのうしろから、ウマに乗った若者がやってきました。
  「もしもし、おけがのようですね。ぼくのウマにお乗りなさい」
  と、若者はしんせつに声をかけました。
  「ありがとう」
  
   旅人は喜んで、ウマに乗せてもらいました。
  「ぼくは、マトウというものです。旅人さん、あなたの名前は?」
  「・・・・・・」
  
   けれどもその旅人は、どういうわけか名まえをいいません。
  
   二人はウマに乗って、しばらくすすみました。
  
   すると男は、道ばたの花を指さしていいました。
  「その花をおってくれませんか。それは、人に愛の力をあたえてくれる花なんです」
  「ほう、そうですか。ではおってきましょう。ちょっと、まっててください」
  
   マトウはウマからとびおりて、花をおりにいきました。
  
   ところが、そのとき男はウマにひとむちあてると、かけだしてしまったのです。
  「あっ、まってくれ!」
  
   マトウはさけびましたが、男のすがたは、たちまち見えなくなってしまいました。
  
   マトウは、こまってましいました。
  
   こんな山の中、しかも、日はとっぷりとくれてしまったのです。
  
   でもげんきをだして、ねるところをさがしはじめました。
  
   そのうちに雷がなり、雨がたたきつけるようにふってきました。
  
   どこかに雨のかからないところはないかとさがしていると、ちょうど近くにほら穴がありました。
  
   マトウはいそいでほら穴の中にはいると、いちばんおくにうずくまりました。
  
   マトウがウトウトしていると、ゴソゴソと、なにやら音がします。
  
   入り口のほうを見ると、一匹のトラがはいってきました。
  
   トラは大あくびをすると、両手の上にあごをのせてねそベります。
  
   しばらくすると、こんどはオオカミ(→詳細)がきて、トラのそばに横になりました。
  
   またすこしたつと、キツネがやってきました。
  「トラさん、オオカミさん、こんばんは」
  
   キツネは、二匹にあいさつしてから、トラにむかっていいました。
  「トラさんは、このごろどうしたんですか? ちっともえものをとってこないじゃありませんか。あたしはあなたのたベのこしをもらうのがたのしみなのです」
  「うん、それにはわけがあるんだ。これはひみつだがね。ほら、あの山に大きな石があるだろう。あの下に宝ものがうめてあるんだ。そいつをほりだしてなめていれば、ちっとも腹がヘらないんだ」
  
   マトウはおそるおそる、トラの指さすほうを見てみました。
  
   そして、その大きな石のあるところを、おぼえておきました。
  
   キツネは、こんどはオオカミにむかって聞きました。
  「オオカミさん、つまらなそうな顔をしているけど、好きな人でもできて、その人のことばかり考えているの?」
  「ふん。そんな人できるもんか」
  と、オオカミは怒ったようにいいました。
  「谷間の草原に、うまそうなヒツジが三千頭もいるんだ。ところが、たった一ぴきだけど、ものすごくほえる番犬がいるもんだから、たまにしかヒツジをぬすみだすことができないんだ。もし番犬が二ひきにでもなったら、もうおれはどうしようもない」
  「ああ、その番犬なら知ってるわ。それに、これもないしょなんだけど、あのイヌのなみだとこの木の葉をまぜてこねると、なんでもなおるくすりができるんですよ」
  
   キツネはそういって、ほら穴の入り口の大きな木を指さしました。
  
   マトウはこっそり首をのばして、その木をしっかりおぼえておきました。
  
   キツネのおしゃべりは、まだつづきます。
  「わたしね。このごろすてきな芸を見物しているの。林の中の小ネズミが、十二枚の金貨をクルクルとまわすの。とってもおもしろいわ」
  
   三びきのけものたちは、いつのまにかねこんでしまいました。
  
   マトウは穴のいちばんおくに、ジッとからだをちぢめていました。
  
   そのうちに、夜があけはじめました。
  
   三びきのけものはおきあがると、大きなのびをして、それぞれでかけていきました。
  
   マトウはホッとして、穴からはいだしました。
  
   そしてまっさきに、穴のそばにある大きな木の葉を、なんまいかつみとりました。
  
   それから林の中へいって、小ネズミをさがしました。
  
   やがて、東の空に太陽がのぼりました。
  
   ふと見ると、足もとにキラリと光るものがありました。
  
   そしてその光るものが、クルクルとまわりだしました。
  
   キツネが言っていたように、小さなネズミが十二枚の金貨をまわしているのでした。
  「おはよう!」
  と、マトウは大きな声でネズミたちにいいました。
  
   小ネズミはビックリして、金貨をしっぽでまいて、あわてて穴の中にもぐってしまいました。
  
   でも、あんまりあわてたので、バラバラと金貨をこぼしてしまいました。
  
   マトウはその金貨をふところにしまうと、つぎにヒツジのむれをさがしにいきました。
  
   谷間の草原で、ヒツジのむれが草をたべています。
  
   そのまんなかに、ヒツジ飼い(→詳細)の小屋がありました。
  
   なるほど、そこには大きな番犬がねそべっています。
  「こんにちは」
  と、マトウが声をかけると、小屋の中からおじいさんがでてきました。
  「おや? 旅のお方か。なにかごようですか?」
  「おじいさん、オオカミがヒツジをねらっていますよ。番犬をふやしなさい」
  「とんでもない! そんな金はありません。ついこのあいだも、せっかく大きくしたこのイヌの子を、人にゆずってしまったくらいですよ」
  「なら、そのイヌを買いもどしなさい。ほら、お金ならありますよ」
  
   マトウは、ふところからさっきの金貨をだしてやりました。
  
   喜んだおじいさんは、さっそく、そのイヌを買いもどしにいきました。
  
   マトウはそのあいだ、ヒツジの番をしながらまっていました。
  
   やがて日もくれかかるころ、おじいさんがもどってきました。
  
   いままでねそべっていた親イヌは、突然ガバッととびおきると、とぶように走っていきました。
  
   おじいさんにつれられてきた子イヌも、こちらにむかって走ってきました。
  
   二ひきはうれしそうに、からだをこすりあわせました。
  「よし、よし。きょうからまたいっしょにくらせるよ」
  
   おじいさんは、目になみだをためて子イヌの頭をなでてやりました。
  
   そのとき、マトウは親イヌの目にも、うれしなみだが光っているのに気がつきました。
  
   マトウはそっと近よって頭をなでながら、木の葉の上にそのなみだをうけとめました。
  
   マトウはイヌのなみだと木の葉でくすりをつくると、やがてまた旅にでました。
  
   ある日、大きな町につきました。
  
   町のまんなかにお城があって、そのまわりに人が集まっています。
  「もし、なにかあるんですか?」
  と、マトウはたずねました。
  「お姫さまが、ご病気なんですよ」
  「気が変になってしまわれたのですが、なおせる医者がないそうです」
  「なおしたものには、のぞみどおりのほうびをくださるそうですよ」
  と、口ぐちに話してくれました。
  
   けれども、人びとは心配そうにお城を見上げるだけで、だれひとりなおしにいこうとするものはいません。
  「よし、ぼくがなおしてあげよう」
  
   マトウは人びとのあいだを通って、お城の中へはいっていきました。
  
   王さまの家来は、マトウの申しでを王さまにつたえました。
  「なに! 旅の男だと。そんなものに姫の病気がなおせるものか! どうせ、ほうびがほしいのだろう」
  と、王さまはマトウを信じてくれません。
  「なおせなかったら、わたしを罰(ばつ)してください!」
  と、マトウはキッパリいいました。
  
   それでようやく、お姫さまのヘやに通されたのです。
  
   気が変になったお姫さまは、ろうやのような所にいれられていて、ボンヤリとてんじょうを見つめていました。
  
   マトウはお姫さまに近寄ると、あのくすりをお姫さまの口の中におしこみました。
  「あっ!」
  と、いったかと思うと、お姫さまはたちまち正気にもどったのです。
  「あなたはどなたですか? わたしはどうして、ろうやにいれられているんです?」
  
   へやのそとからようすを見ていた王さまは、大喜びでかけよってきました。
  
   そしてマトウの手をとって、
  「よくぞ姫をなおしてくれた! 礼として、おまえにひめをあたえよう。これからはこの国でいっしょにくらしておくれ」
  と、いいました。
  
   マトウはお姫さまの美しさに、心をうばわれていましたから、すぐに王さまのいうとおりにしました。
  
   王さまの命令で、マトウのお城がつくられることになりました。
  
   そこでマトウは、お城をあのトラが話していた大石の上にたてようと思いました。
  
   いよいよ、大石の上で工事がはじまりました。
  
   国中から、たくさんの人夫が集められました。
  
   そしてその中に、いつかマトウのウマをうばってにげた男がまじっていたのです。
  
   けれども男のほうでは、マトウがすっかりりっぱになっているので、すこしも気がつきません。
  
   マトウはこの男には、しごとをさせませんでした。
  
   それどころかごちそうをたべさせ、お金をやって遊ばせておきました。
  「だんな。どうしてこんなに、よくしてくださるんですか?」
  と、ある日男が聞きました。
  「それは、ぼくの顔をよく見てごらん。いつかウマをとられて、ひどいめにあったマトウだよ」
  「へっ? ・・・・・・あっ!」
  
   男はやっと思いだして、顔がまっさおになりました。
  「そんなに怖がらなくてもいいよ。あのときは腹が立ったけど、でもそのおかげで、ぼくはこんなにりっぱなものになれたのだ。ありがとうよ」
  
   そしてマトウは、男にこれまでのできごとをすっかり話して聞かせました。
  
   さて、その晩のことです。
  
   男はマトウのかくれた、けもののほら穴にもぐりこみました。
  
   こうして自分も、金もうけをしようと思ったのです。
  
   夜がふけると、トラとオオカミとキツネがやってきました。
  「おや、トラのだんなさん。ちかごろおやせになりましたね」
  と、キツネがいいました。
  「うん、あの宝のうめてある石の上にお城がたつんで、近よれなくなっちゃったんだ」
  
   男はそれを聞くと、
  (よし、あとでほりだしてやろう)
  と、思いました。
  「オオカミさん。あんたもすっかりやせて、元気がなくなりましたねえ」
  と、キツネがいいました。
  「ああ、あのヒツジのむれには、もう手がだせなくなってしまったんだ。なにしろでかい番犬が、いまじゃ二ひきもがんばってるからなあ」
  
   こういって、オオカミはためいきをつきました。
  「そうですか。じつはわたしも、たのしみがなくなっちゃったのよ。もう、小ネズミの芸が見られないの」
  「うーん。どうもへんだねえ」
  と、三びきは、いっしょにつぶやきました。
  「そうだ! こうなったのは、われわれのひみつをだれかに知られたからにちがいない!」
  と、トラがいいました。
  「うん。そういえば、人間のにおいがするぞ。・・・この奥の方だ!」
  「よし、そいつをみんなでつかまえよう!」
  と、三びきはいっせいにさけんで、穴のおくへとびこみました。
  
   そして男を見つけると、すぐさまガブリと、かみころしてしまいました。