4月3日の百物語
見たな!
京都府の民話
むかしむかし、都でも名のある屋敷に、どこからともなく一人の美しい女がたずねてきました。
「どうか、お屋敷で働かせてください」
屋敷には女中(じょちゅう)が大勢いましたが、奥方は女の気品の良さが気に入って、しばらく働かせてみる事にしました。
すると女は、言葉使いといい、こまやかな気配りといい、女中として申し分ありません。
花をいけさせても、字を書かせても、素晴らしい手なみです。
主人も、すっかり女を気に入って、
「部屋を与えて、大事にいたせ」
と、奥方に言いました。
ある晩の事。
奥方が夜ふけに女の部屋の前を通ると、あんどんがぼんやりともっていました。
「あら? 今頃まで、何をしているのかしら?」
奥方がそっと部屋をのぞくと、体から頭を抜き取った女が、抜き取った自分の頭を鏡台の前に置いて、その顔にお化粧をしているのでした。
「!!!」
あまりの事に、奥方は声も出ません。
女はお化粧を終えた頭を両手で持ち上げると、くいくいっと、自分の体にはめ戻して、何事もなかった様に寝てしまいました。
奥方は主人の部屋に駆け込むと、さっき見た事を話しました。
そして二人は相談をして、女をやめさせる事にしたのです。
あくる朝、奥方は女に言いました。
「突然ですが、主人の言いつけで女中を減らさねばなりません。
あとから入ったあなたをそのままにして、他の者にひまを出す事は無理ですから、残念だけどお前さんに・・・」
すると話しを聞いていた女は、みるみる目をつりあげて、
「さては、見たなっ!」
と、耳まで裂けた口から恐ろしい声をあげて、奥方に飛びかかろうとしました。
その瞬間、
「化け物め、思い知れ!」
と、部屋に飛び込んだ主人が、刀で女の首を切り落としたのです。
主人に切り殺された女の正体は年老いた大ネコで、尾の先がふたまたになっていました。
これは、ネコまたと呼ばれる妖怪です。
そしてそのひたいには、鬼の様な角が生えていました。
主人は、ネコまたの死骸に手を合わせて言いました。
「みやびな家に、長い間飼われていたネコであったのだろう。よく働いてくれたが、妖怪を家に置いておくわけにはいかん。許せよ」
それから主人はお坊さんを呼ぶと、ネコまたの為にお経をあげてもらいました。
おしまい