4月9日の百物語
キツネの毒キノコ
青森県の民話
むかしむかし、山のふもとのある村に、年頃の娘を持ったおじいさんとおばあさんがいました。
娘はお春(はる)という名で、村一番の美人です。
ある日の事、別の村のお金持ちから使いが来て、娘を嫁に欲しいと言うのです。
おじいさんは大喜びで、さっそく嫁入り道具を買いに町へ出かけました。
おじいさんが峠(とうげ)の道を歩いていると、林の中にキツネが集まって、楽しそうに歌いながら踊っていました。
この峠に住むキツネは、日頃から村人に悪さばかりしています。
(なんじゃ、キツネどもが悪さの相談か?)
おじいさんがその歌声に聞き耳を立てると、キツネたちは、
♪美人のお春
♪嫁にもらって、楽しみだ
♪早く、お春がこねえかな
と、歌っているのです。
それを聞いたおじいさんは、ビックリ。
「キツネたちめ、よくもだましよったな!」
おじいさんは急いで家に戻ると、この事をおばあさんに話しました。
それを聞いたおばあさんも、すっかり腹を立てて、
「じいさま。
キツネに豆酒(まめざけ)を飲ませると、動けなくなるといいます。
キツネたちが嫁をもらいに来たら、豆酒を飲ませてやりましょう」
と、言って、さっそく豆酒をつくりました。
さて約束の日になると、キツネたちは男前の若者に化けて、馬を引いてやって来ました。
それを見つけたおじいさんは、
「やあやあ、遠いところをごくろうさんです。
まだ娘の準備が終わっていないので、しばらく休んでくだされや」
と、あいさつをして、男たちに豆酒を飲ませました。
馬にも、おばあさんが豆酒のしぼりかすの煮豆を与えます。
やがていい気持ちになった男たちは横になっていびきをかきはじめ、そして尻尾を出したり、とがった耳を出したりと、キツネの正体を現したのです。
「それっ、やってしまえ!」
おじいさんとおばあさんは、ねむっているキツネたちを次々とやっつけました。
そして家の裏につないだ馬たちもキツネの正体を現したので、これも次々とやっつけました。
その時、一匹のキツネが息を吹き返して逃げ出しました。
おじいさんがあとをつけて行くと、キツネは山の巣穴(すあな)へ逃げ込んで、留守番(るすばん)をしていた古ギツネに言いました。
「じいいとばばあに正体を見破られて、みんな殺されてしもうた。
おら、仲間のかたき討ちをする。
じじいの家の庭に生える毒キノコに化けて、娘のお春も一緒に、皆殺しにしてやるわ」
すると、それを聞いた古ギツネは、
「毒キノコに化けるというが、人間はかしこいからな。
毒キノコの毒はイワシの煮干しと一緒に煮込んだら消えてしまうのを、知っとるかもしれんぞ」
と、言いましたが、若いキツネは聞きません。
(そうか、毒キノコの毒は、イワシの煮干しと一緒に煮込んだら消えてしまうのか)
話を聞いたおじいさんが家に帰ると、さっそく庭で大きな大きなキノコが生えてきました。
「ははーん、これだな」
おじいさんはそのキノコを取ると、イワシの煮干しと一緒に煮込みました。
するとキツネが化けた毒キノコの毒が消えて、とてもおいしいキノコ汁になったのです。
おじいさんとおばあさんはキツネのキノコ汁を近所の人たちにもふるまい、悪いキツネ退治のお祝いをしたという事です。
おしまい