1月20日の日本民話
おなかにわすれられたかさ
長野県の民話
むかしむかし、あるところに、たいへんなお酒のみがいました。
町でお酒をのんでの帰り道、きゅうにのどがかわいて水がのみたくなりました。
「のどがかわいたな。どっかに水はないかな?」
と、さがしていたら、一軒の家の前に水の入ったおけがおいてありました。
とてもきたない水でボウフラがわいていましたが、それでもがまんできずに、お酒のみはおけの中に首をつっこんで、そのきたない水をガブガブとのんだのです。
ところがおなかの中のボウフラがウヨウヨと動くので、気持ちが悪くなって、家に帰っても寝ることができません。
おなかのウヨウヨは、朝になってもひどくなるばかりです。
「弱ったなあ」
お酒のみが青い顔で寝ていると、友だちがやって来ました。
「どうした? そんなに気持ちの悪そうな顔をして」
お酒のみがわけを話すと、友だちが言いました。
「それなら、金魚をのめばよい。ボウフラは金魚のエサだから、みんな食べてくれるさ」
「そうか、その手があったか」
お酒のみはさっそく、金魚を一匹のみこみました。
ところが、おなかに入った金魚がボウフラを追いまわすので、よけいに気持ち悪くなりました。
「ちえっ、つまらんことを教えやがって」
お酒のみが気持ち悪そうにねていると、ほかの友だちがやってきていいました。
「そんなら、鳥をのめばいい。鳥なら、ボウフラも金魚も食べてくれるさ」
「そうか、その手があったか」
お酒のみは、さっそく鳥をのみこみました。
鳥はボウフラも金魚もあっというまに食べてくれましたが、食後の運動におなかの中でバタバタとあばれるので、お酒のみはおなかがいたくてたまりません。
「ちえっ、つまらんことを教えやがって」
お酒のみは青い顔で、鳥があばれないようにおなかを押さえていました。
するとそこへ、またべつの友だちがやってきていいました。
「それなら、おれのおじさんをよんでこよう。おれのおじさんは鳥をつかまえる名人だ」
「そうか、その手があったか」
それで、お酒のみは鳥をつかまえる名人のおじさんに、おなかの中へ入ってもらうことにしました。
おじさんはいつものようにかさをかぶり、鳥をつかまえるさおを持って、お酒のみのおなかの中へ入っていきました。
さすがは名人です。
あっというまに鳥をつかまえると、外へ出てきたのでした。
ところがうっかりかさをわすれてしまったので、お酒のみのおなかはガサガサして、ますます気持ちがわるくなったという事です。
おしまい
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