2月15日の日本民話
寝太郎物語
山口県の民話
むかしから、佐渡ヶ島(さどがしま)は金(きん)が取れることで有名でしたが、勝手に金を持ち出すこと、いえ、たとえひとにぎりの砂を持ち出すことも禁じられていました。
さて、ある庄屋(しょうや)の息子に、寝太郎(ねたろう)と呼ばれる男がいました。
この寝太郎は、名前のように、毎日毎日寝てばかりいるのです。
ところがあるとき、この寝太郎が突然起き上がり、父親である庄屋に言いました。
「お父さん、千石船(せんごくぶね)を二そうつくってください」
「よしよし、さっそく船大工を呼び寄せよう」
父親が千石船をつくってやると、今度は、
「わらじを、千石船いっぱいに用意してください」
と、いいました。
庄屋がその通りにしてやると、今度は、
「あの千石船にわらじを積みこんで、船乗りを七、八人やとってください」
と、いいました。
父親がその通りにしてやると、寝太郎は喜んで船に乗り込み、行く先も告げずに出発しました。
船は西へ西へと向かい、玄海(げんかい)の荒海(あらなみ)に出ると、まっすぐ日本海の大海原(おおうなばら)を進んで行きました。
こうしてたどり着いたのは、佐渡ヶ島でした。
港に船を着けると、寝太郎はさっそく島の人々を呼び集め、
「はき古しのわらじを、新しいのとかえてあげよう。しかもただじゃ。はき古しのわらじは、古いのほどええんじゃ」
と、言って、はき古したわらじと新しいわらじをとりかえました。
はき古したわらじが、船いっぱいになると、
「さあ、用事はすんだ。村へかえろう」
と、船を出しました。
はき古しのわらじを船いっぱいに積みこんで帰ってきた寝太郎は、今度は大きな桶(おけ)を父親にねだりました。
父親はさっそく、桶職人をやとって桶をつくらせました。
桶が出来上がると、寝太郎は桶に水をいっぱいはり、船乗りたちにその中でわらじを洗わせました。
この仕事は何日も何日も続けられ、やっと全部のわらじを洗い終わると、こんどは桶の水を上の方からそっとくみ出させました。
そうして水がだんだん減ってきて、桶の底が見えてきました。
よく見ると、桶のそこには金色に光るものが見えます。
手にすくってみると、それは金の砂でした。
「金じゃ。金じゃ。金の砂じゃ」
船乗りたちの喜びの声は、すぐに村中に伝わりました。
寝太郎は、ひとにぎりの砂も持ち出すことを禁じられていた佐渡の土を、どうやって持ち出そうかと、寝ながら考えていたのです。
寝太郎はこの金を使って開作地を作り、かんがい水路を通して千町田という広い水田を作り、村人に分けあたえました。
村人は大変感謝して、寝太郎を寝太郎大明神(ねたろうだいみょうじん)として、まつるようになりました。
おしまい
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