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2010年 1月22日の新作昔話

栗拾い

栗拾い
静岡県の民話

 むかしむかし、あるところに、早くに母親を亡くした娘がいました。
 娘の父親は、やがて娘よりも一つ年下の女の子を連れた継母が迎えたのですが、この継母は自分の血がつながった妹の方ばかり可愛がり、血のつながっていない姉にはつらく当たるようになったのです。
 ある日の事、継母は姉には穴の開いたカゴを持たせて、妹には穴の開いていないカゴを持たせて栗拾いに行かせました。
 お昼過ぎになると、栗をカゴいっぱいに拾った妹は、
「私のカゴはもう一杯だから、先に帰る」
と、言って、さっさと帰ってしまいました。
 一方、姉のカゴに穴が開いているので、姉がいくら栗を拾っても、カゴは一杯になりません。
 そのうちに、あたりが暗くなってしまいました。
「どうしよう? カゴいっぱいに栗を拾って帰らないと、お母さんに叱られるし」
 姉が途方に暮れていると、ふと山の上の方に、家のあかりがともりました。
「あら、あんな所に、家があったなんて」
 姉が急いでその家を訪ねると、中からおばあさんが出てきました。
「あの、夜分にすみません。実は、家に帰れず困っています。どうか今晩、泊めてはくれませんか?」
 姉が頭を下げて今までの事情を話すと、おばあさんは姉を家の中に入れて言いました。
「実はね、この家の主人は鬼で、もうじき帰ってくるのですよ。でも、こんな山で野宿をしてオオカミに襲われてもいけないから、家の中で隠れていなさい」
 そしておばあさんは姉にあたたかい雑炊を食べさせてあげると、家の二階に隠してくれました。
 やがて主人の鬼が帰ってくると、鬼は鼻をヒクヒクさせて、家の中を嗅ぎまわりました。
「おや? 何だか人間のにおいがするぞ。おい、里から人が迷い込んで来なかったか?」
 するとおばあさんは、何食わぬ顔で答えました。
「いいえ、誰も来ていませんよ。第一、鬼の棲むこんな山家へ、人間が来るはずがないでしょう」
「まあ、それもそうだな」
 鬼は納得すると、いびきをかきながら寝てしまいました。
 さて次の朝、鬼が用事で出かけていくと、おばあさんは二階に隠した姉を呼んで言いました。
「恐がらせてすまなかったね。今の間に家にお帰り。これは、土産だよ。これで家に帰れるだろう」
 おばあさんはそう言って、姉に穴をふさいだカゴに栗をいっぱい入れてくれると、おまけにきれいな箱もくれました。
「おばあさん、ありがとう」
 姉は喜んで家へ帰ると、お母さんに栗のカゴを手渡して、おばあさんにもらった箱を開けてみました。
 するとその箱には、金銀やサンゴの宝物が、ぎっしり詰まっていたのです。
 さあ、それを見たお母さんと妹は、うらやましくてたまりません。
 そこで今度は昨日と反対に、妹に穴の開いたカゴを持たせて栗拾いに行かせました。
 お昼頃になると、姉は妹に、
「私はカゴ一杯に栗を拾えたから、あなたの分も手伝いましょうか?」
と、言ったのですが、
「そんな事を言って、また宝物を独り占めするつもりだろう! こっちはいいから、姉さんは早く家に帰れ!」
と、妹は姉を追い返したのです。
 さて、一人残った妹が、宝物の事を考えながら日が暮れるのを待っていると、やがて辺りが暗くなって山の上の方に明かりがともりました。
「ああ、あれが宝物をくれる家ね」
 妹がその家を訪ねると、姉の時と同じようにおばあさんが出てきて、妹に温かい雑炊を食べさせてくれると、鬼に見つからないように妹を二階へと隠してくれました。
 そして夜が明けて鬼が家を出て行くと、おばあさんは妹に穴を直したカゴとカゴいっぱいの栗をお土産にくれて、妹に言いました。
「さあ、これはお土産だよ。これを持って早く家にお帰り」
 すると妹は、お土産にくれたカゴの栗を投げ捨てて、おばあさんに言いました。
「こんな物はいらない! それよりも、姉さんにくれた土産の箱をわたしにもちょうだい!」
 するとおばあさんは、妹に箱を渡して言いました。
「欲しいのならあげるけど、これは、持ち主にふさわしい物が出てくる箱だよ。だから、開けるときは、気をつけるんだよ」
「ふん。持ち主にふさわしい物が出てくるなら、あたしには姉さんよりもいい物が出てくるに決まっている!」
 妹は箱を手に抱えると、急いで家に帰りました。
 そして妹は家に着くと、
「この宝は、あたしとお母さんの物だからね。取られたら困るから、姉さんは家を出ていてよ」
と、姉を家の外に追い出すと、お母さんと二人で箱を開けてみました。
 すると中からは宝ではなく、毒ヘビや毒虫や毒ガエルなどがたくさん出てきて、びっくりする妹とお母さんを食い殺してしまったと言うことです。

おしまい

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