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2010年 3月17日の新作昔話

薬王寺(やくおうじ)の上り竜と下り竜

薬王寺(やくおうじ)の上り竜と下り竜
岐阜県の民話

 むかしむかし、帷子(かたびら)というところが毎日の日照り続きで、村人たちは困っていました。
 そこで村人たちは、来る日も来る日も薬師堂にこもって、雨ごいのお祈りをしていたのです。
 そんなある日の事、一人の老人が、ふと上を見上げて、高梁(たかばり)に彫られた竜を見つめました。
「ほう。さすがは名人といわれた林市衛門と玉置吉兵衛が作っただけの事はあるのう」
 すると、ほめられたのがうれしかったのか、下り竜の舌がペロペロと動き、上り竜の尾がピクピクと動いたのです。
 それを見た老人は、思わず竜に手を合わせて言いました。
「竜よ、心あるなら聞いておくれ。この村はな、もう一ヶ月も雨が降らんのじゃ。もう、何もかも枯れてしまい、このままでは村は全滅じゃ。お前たちが本当に水を呼ぶ事が出来るのなら、どうか雨を恵んでくだされ」
 すると不思議な事に、晴れ渡っていた空に黒雲がひろがって稲妻が光ると、いきなり、ものすごい雨がザーザーと降り出したのです。
「おおっ、雨だ! 竜が雨を降らせてくれたぞ!」
 村人たちは飛び上がって喜びましたが、今度はその雨があまりにも振り過ぎたために、大水で田畑が流されそうになったのです。
 するとあの老人は、また薬師堂へ行って竜に手を合わせました。
「いくら雨が欲しいと言っても、これでは田畑も家も大水に押し流されてしまう。どうか、雨をやませて下され」
 すると、たちまち雷鳴はおさまって、空は青く晴れ渡ったのです。
 この大雨のおかげで、死にかけていた田畑は生きかえりました。
 そこで村人たちは、再び薬師堂にお礼のお参りをしたのです。
 そして、ふと高梁の竜を見上げてみると、不思議な事に下り竜の片目がつぶれていたということです。

おしまい

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