きっちょむさん特集
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2010年 4月23日の新作昔話

馬の友だち

馬の友だち
吉四六(きっちょむ)さん → 吉四六さんについて

 むかしむかし、きっちょむさんと言う、とてもゆかいな人がいました。

 ある日の事、きっちょむさんは馬にたきぎを積んで、町へ売りに行きました。
「たきぎ! たきぎはいりませんか」
 こう言いながら町を歩いていると、欲張りで有名な風呂屋の主人が、きっちょむさんを呼び止めました。
 ちなみにこの風呂屋は、以前、きっちょむさんをだまして馬ごとたきぎを手に入れた、『餅屋の値段』の餅屋の友だちです。
 もっとも、その餅屋は、後できっちょむさんに、痛い目にあわされましたが。
「おい、そのたきぎは、一わ、いくらだ?」
「はい、一わ、十文でございます」
「そうか。では、その馬に乗せてあるのを全部買ってやろう。みんなでいくらになる?」
「はい、全部買ってくださるなら、五十文にしておきましょう」
「よしよし。では、五十文を受け取れ」
「ありがとうございます」
 値切りもしないで買ってくれたので、きっちょむさんは、ほくほくして馬の背からたきぎを降ろしました。
「では、みんなで、六ぱでございます」
 すると風呂屋の主人は、怖い目をギロリとむいて、口をとがらせました。
「なんだこら、まだ残っているではないか!」
「えっ? そんなはずはありません」
「馬の背に、くらが残っているじゃないか!」
「えっ?」
「おれは、馬に乗せてある物を全部買う約束をした。だから、馬の背に乗っているくらも買った事になる。どうだ、文句があるか!」
「あっ、これは、しまった!」
 きっちょむさんは、思わず叫びました。
「どうだ、きっちょむさん、おれは餅屋とはひと味違うぞ。わはははははは」
 風呂屋の主人は、餅屋の仇討ちをしてやったと、手を叩いて大喜びです。
(そうか、あの餅屋と風呂屋は友だちだったんだ。これは油断したな)
 さすがのきっちょむさんも、素直に馬からくらを下ろして、こそこそと帰って行きました。

 でも、これで引き下がるきっちょむさんではありません。
 その翌日、きっちょむさんがひょっこり風呂屋ののれんから首を出しました。
「おお、きっちょむさん! なんだ、また、たきぎを売りにきたのか」
 主人は勝ち誇った顔で、番台の上から声をかけました。
 するときっちょむさんは、にっこりして、
「いや、今日は別の用事で町へ来たのだが、あまりにも寒いので風呂に入りたいと思ってね。風呂賃は、いくらだい?」
「風呂賃は、十文だよ」
「そうか。しかし、おれだけじゃなくて、友だちも入りたいと、外で待っているんだ」
「じゃ、二人で二十文だ」
「でも、その友だちは、とても大きい奴で」
「はっはっはっ。いくら大きくたって、風呂賃に違いはないよ」
「そうか。じゃあ、友だちを連れてくる」
 そう言ってきっちょむさんは、風呂賃の二十文払って外に出て行きましたが、やがて、パカパカと大きな足音がしたかと思うと、番台の前に馬の顔が現れて、
「 ヒィーーン」
と、いななきました。
 風呂屋の主人は、飛び上がって驚きました。
「うあっ! きっちょむさん、乱暴をするな。馬は外につないでおきな」
「なに、この馬も一緒に湯に入るんだよ」
「ば、馬鹿な」
「だって、風呂賃は、ちゃんと払ってあるだろう」
「では、きっちょむさんが言っていた、大きな友だちとは、この馬の事か?」
「そうさ。この馬が、おれの大きな友だちさ。では友だち、一緒に入ろうか」
「ま、ま、待ってくれ!」
 風呂屋の主人は、すぐに番台から飛び降りると、
「きっちょむさん、おれが悪かった。風呂賃もくらも返すから、どうかそれだけは、かんべんしてくれ」
と、平謝りに謝ったそうです。

おしまい

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