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2010年 5月10日の新作昔話

母親と死んだ子ども

母親と死んだ子ども
ロシアの昔話

 むかしむかし、あるところに、大切な息子を亡くした母親がいました。
 母親は、毎日毎日、泣いてばかりいました。
「ああ、もう一度、あの子に会いたいわ。会えるのなら、たとえ死んだ姿のままでもいいから」
 それを聞いた村人は、母親に言いました。
「それなら、夜中に教会へ行ってごらんなさい。夜中の教会には死んだ人たちが集まってくるから、きっと息子さんにも会えるだろう。だけど、もしもの時の為に、おんどりを一羽連れて行くといい」
 そこで母親は言われた通り、おんどりを連れて教会のそばで待っていました。
 やがて夜中になると、教会の側の墓の前に死んだ人たち現れました。
 母親が息子の墓を見てみると、
「あ、あの子もいるわ」
 喜んだ母親は、飛び出して行こうとしました。
 けれどよく見ると、息子はいつの間にか、今にも水がこぼれそうなおけを、重そうにかかえているのです。
 実は、おけの中の水は、母親が息子のために流した涙なのです。
 母親は大勢の死んだ人たちと一緒になって、息子が、だんだん自分の方へ近づいて来ると、何だかとても恐ろしくなってきました。
「いや! 来ないで!」
 とうとう母親は、家の方へと逃げ出しました。
 ところが息子は、母親を見つけて、どんどん追いかけてきます。
 母親は着ていた服をあわてて脱ぐと、息子の方へ放り投げました。
 すると息子はそれを拾って、ビリビリと引き裂いてしまったではありませんか。
 母親は、ますます怖くなりました。
 そして、ようやく家の門までたどり着いた時、連れていたおんどりが鳴きました。
「コケコッコー!」
 すると息子は、その場にばったりと倒れてしまい、やがて朝日が当たると溶ける様に消えてしまいました。

 この国では、子どもをなくした母親が、いつまでも嘆き悲しんでいると、あの世へ行った子どもは成仏できず、とても苦しい思いをすると言われています。

おしまい

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